【医師監修】乳腺炎で授乳をやめたくなったとき|いま急にやめないほうがいい理由と、やめると決めてもいい理由——ガイドラインが書く「やめたい気持ち」への支援

【医師監修】乳腺炎で授乳をやめたくなったとき|いま急にやめないほうがいい理由と、やめると決めてもいい理由——ガイドラインが書く「やめたい気持ち」への支援(母乳ナビ・医師監修)

熱が出て、乳房が痛くて、飲ませるたびに涙が出る。赤ちゃんは痛い側を嫌がって泣く。——乳腺炎のさなかに「もう授乳をやめてしまいたい」と思うのは、珍しいことではありません。日本助産師会『乳腺炎ケアガイドライン2020』も、その気持ちを支援の対象としてはっきり書いています。このページでは、いま急にやめないほうがいい理由と、それでもやめると決めてよいこと、そして「全部やめる」と「このまま耐える」のあいだにある選択肢を、一次資料の言葉に沿ってまとめます。

先に結論です。ガイドラインは、心の準備ができていない状態での授乳中止は乳腺炎の回復には役立たず、かえって状態を悪化させる危険があるとしています。一方で、ケアのフローチャートには母乳を続ける意思がない場合の「授乳終了への支援」も道として描かれています。続けるか、やめるかを決めるのはあなたです。決める前に、つらさの中身を分けて、手を打てるものから打つ——それがこのページの順番です。

「やめたい」と思うのは、おかしなことではありません

ガイドラインの「支持的カウンセリング(情緒的支援)と情報提供」の項は、乳腺炎の母親の状態をこう書いています。

乳腺炎は、 倦怠感など全身の不調と乳房局所の熱感や痛みを伴うため、 母親には非常にダメージの大きい出来事である。 加えて、 授乳継続への不安、 乳腺炎再発の恐怖、通院治療の心身への負担、児や家族に負担をかけていることへの申し訳なさ、さらには苦痛に満ちた授乳をもう止めてしまいたいなど、 さまざまな思いが交錯し、精神的にも追い詰められた状態になることが多い。

「苦痛に満ちた授乳をもう止めてしまいたい」という気持ちが、支援する側の手引きにそのまま書かれています。つまり、それは母親としての失格の印ではなく、乳腺炎という病気にふつうに伴う反応として扱われているということです。

支援者の姿勢についても、次のように書かれています。

母親の言動について価値判断を行わず、受容的に語りを傾聴し、共感する。

助産師や医師に「やめたい気持ちもある」と話すことは、叱られる理由にはなりません。むしろ、それを言ってもらえないと、支援する側はあなたに合った手を打てません。

それでも、いま急にやめないほうがいい理由

ガイドラインは、授乳を続けるかどうかについて、次の考え方を引用しています。

乳腺炎および膿瘍のある母親が授乳を継続することは、 その女性の回復と児の健康にとって重要である。 授乳中止は乳腺炎の回復には役立たず、 かえって状態を悪化させる危険が生じる。さらに、 心の準備ができていない状態での授乳中止は、その母親に深刻な情緒的ストレスを与えることもある

ポイントは二つあります。一つは体の理由です。乳腺炎は乳汁がたまること(うっ滞)が引き金になりやすく、ガイドラインは「頻繁で効果的に乳汁を乳房から取り去ることが、最も重要な治療手段である」としています。いちばんつらい時期に出口を急に閉じると、治療の手段を手放すことになります。

もう一つは心の理由です。「心の準備ができていない状態での授乳中止」は、それ自体が深刻なストレスになりうると書かれています。熱と痛みの中で決めたことを、あとで悔やむ方もいます。だからこそ、やめるにしても、症状が落ち着いてから、段階を踏んで、が基本になります。急にやめると張りやすい理由と減らし方は卒乳・断乳のときの乳腺炎予防にまとめています。

授乳が「つらい」の中身を、分けてみる

「やめたい」の中には、性質の違うつらさがいくつも混ざっていることが多いものです。ガイドラインには、それぞれに対応する記載があります。

① 痛くて、飲ませるのがこわい

痛み止めは我慢するものではありません。ガイドラインはこう書いています。

痛み止めは射乳反射を起こしやすくするので、 服薬を勧める。

痛みが和らぐと母乳が出やすくなり、授乳の時間そのものが短く、楽になることがあります。授乳中に使える薬の考え方は乳腺炎の薬(痛み止めと抗菌薬)を参照してください。乳頭そのものが痛いときは、くわえ方の見直しが効くことがあります(乳頭が痛いとき)。

② 赤ちゃんが痛い側を嫌がって泣く

これは「赤ちゃんに拒まれた」のではなく、理由があります。

乳腺炎罹患時は、 乳房の状態や乳汁の出方が通常と異なることや、 炎症により細胞間隙が開いてナトリウムが腺房内に流入することなどにより、 児が乳房を嫌がったり哺乳拒否を起こすこともある

炎症で母乳の味や出方が一時的に変わるために、赤ちゃんが戸惑っているのです。ガイドラインには、抱っこしてゆらゆらあやす、眠いときに飲ませる、別の姿勢を試す、肌と肌のふれあいを増やす、といった具体的ななだめ方が並んでいます。詳しくは乳腺炎でも授乳は続けていい?にまとめました。

③ ずっと吸っているのに、飲めている気がしない

乳腺炎のときの赤ちゃんの吸い方にも特徴があります。ガイドラインは、射乳が起こりにくいために赤ちゃんは栄養をとらない吸い方(非栄養的吸啜)が多くなり、1回に出る量が少ないのでしっかり飲む時間(栄養的吸啜)が短くなる、と説明しています。「長く吸われているのに飲めていない」と感じるのは、あなたの母乳が足りないからではなく、乳腺炎の時期に起こる現象です。

④ とにかく疲れて、休めない

ガイドラインは「母親のストレスと疲労は乳腺炎の誘因とされている」としたうえで、支援の中身を具体的に挙げています。

  • 児が眠っている時にあわせて母親も休むよう促す
  • 日常生活や家事の負担等を家族が共に相談できる場を設けたり、実際的な家事援助が得られるように調整する
  • 家事代行サービスや利用可能な公的支援について情報提供する
  • 仕事の負担や電子メール、ソーシャルネットワークサービス等の情報授受による負担を軽減できるよう促す
  • 非常に重症な場合や家族の援助がない場合には、母子同室での入院等を考慮する

スマホで情報を探し続けることも「負担」として名指しされています。休むことは治療の一部です(乳腺炎のときの食事と過ごし方)。自治体の産後ケアについては産後ケアで乳腺炎の相談はできる?を参照してください。

「全部やめる」と「このまま耐える」のあいだにある選択肢

選択肢は二つだけではありません。ガイドラインが引用しているアメリカ小児科学会感染症委員会の勧告には、次の一文があります。

たとえ、患側乳房からの授乳が中断されたとしても、健側乳房からの授乳は続けてよい

さらに、日本助産師会・日本助産学会は、乳汁を出す手段の順番をこう提案しています。

第一に直接授乳を促し、それが不十分もしくはできない場合には自身による搾乳、さらに不十分な場合には助産師による搾乳で乳房内の乳汁うっ滞を軽減させることを提案する。

組み合わせると、たとえば次のような「途中の形」がありえます。

  • 痛い側だけ、しばらく直接授乳を休む。反対側からは飲ませ続ける
  • 休んでいる側は、痛くない範囲で自分で搾乳して出口を保つ(搾乳のやり方)
  • 自分でうまく出せないときは、助産師に搾乳してもらう

どれを選ぶかは、乳房の状態と赤ちゃんの様子で変わります。自己判断で片側を放置すると、そちらがうっ滞するおそれがあるので、助産師や医師と一緒に決めてください。

それでも、やめると決めたら

ガイドラインの「乳腺炎ケアのフローチャート2020」には、膿瘍ができた段階などで、母乳継続の意思がない場合は「母親:断乳/助産師:授乳終了への支援」へ進む道が描かれています。やめることは、支援の外に出ることではありません。支援の中にある一つの道です。

なお、ガイドラインは「卒乳」「断乳」について、明確な定義が行われていないため、本書においては授乳の終了をさすことの総称として「乳離れ」という言葉を用いる、としています。言葉の違いにこだわる必要はありません。大切なのは、急にゼロにせず、張りを見ながら少しずつ減らすことと、一人で進めずに助産師や医師に相談することです。

助産師・医師への伝え方

ガイドラインは、支援者が母親に「今後の経過予測や自己管理上の注意点を説明し、母親が自ら見通しをもって治療に自ら参加できるよう予期的な情報提供を行う」ことを求めています。見通しがあると、「あと何日がんばればいいのか」「どこまで悪くなったら次の手を打つのか」が分かり、気持ちが少し楽になります。受診のときは、遠慮せずに次のことを聞いてみてください。

  • 「正直、授乳をやめたい気持ちもあります」——まず、そのまま伝えてかまいません
  • 「いまの状態だと、あと何日くらいで楽になりそうですか」
  • 「痛い側だけ休むことはできますか。その間の搾乳はどうすればいいですか」
  • 「どうなったら、もう一度受診すればいいですか」
  • 「やめるとしたら、いつ・どんなふうに減らせばいいですか」

早めに受診したいサイン

気持ちがつらいときほど、体のサインを見落としがちです。次のようなときは、我慢せずに受診してください。

  • 授乳・搾乳を続けても12〜24時間以内に症状が良くならない、または急に悪くなる(ガイドラインは、この場合に抗菌薬治療を開始するとしています)
  • しこりの中に波打つような柔らかい部分が触れる(乳腺膿瘍の可能性)
  • 高い熱が続く、寒気でふるえる、ぐったりして水分がとれない
  • 夜間や休日で判断に迷うとき(夜間・休日に乳腺炎になったら)

まとめ

  • 乳腺炎のさなかに「もう授乳をやめてしまいたい」と思うのは、ガイドラインにも書かれている、ふつうの反応
  • 支援者は価値判断を行わずに聞くことになっている。「やめたい」と言ってかまわない
  • 心の準備ができていない授乳中止は回復に役立たず、悪化させる危険がある。決めるなら症状が落ち着いてから
  • つらさを分ける:痛みは痛み止め、嫌がるのは炎症で母乳の性質が変わるため、疲れは家事援助・公的支援・情報の負担を減らす
  • 途中の形がある:健側は続けてよい。直接授乳→自分で搾乳→助産師の搾乳、の順で出口を保つ
  • やめると決めたら、それも支援の中の道。急にゼロにせず、助産師・医師と一緒に進める

参照ソース(一次情報)

← トップ(乳腺炎まとめ)へ戻る

🩺 医師監修
本記事は医師が内容を確認しています。一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状が強いとき・改善しないときは医療機関を受診してください。
(情報更新日:2026-09-24)
タイトルとURLをコピーしました