【医師監修】助産師の乳房マッサージは受けたほうがいい?|「痛いほど効く」が違う理由と、2018年から保険が使えるケア

【医師監修】助産師の乳房マッサージは受けたほうがいい?|「痛いほど効く」が違う理由と、2018年から保険が使えるケア(母乳ナビ・医師監修)

乳腺炎になったとき、「助産院でマッサージしてもらったほうがいいですか」と聞かれることがよくあります。結論から言うと、受ける価値はあります。ただし「痛いほど効く」は違います。日本助産師会『乳腺炎ケアガイドライン2020』は、痛みを伴わないことを条件として明記しています。さらに2018年からは、このケアが公的医療保険の対象になりました。このページでは、何にエビデンスがあり、何にはないのか、そして受ける前に確認していいことを整理します。

いちばん大事な一文を先に置きます。ガイドラインは、助産師が行うケアの条件をこう書いています。「局所の安静を保つことを優先し、局所への過度な圧力を避け、痛みを伴わない搾乳(乳汁ドレナージ)を推奨する」。乳腺炎は炎症を起こしている状態です。痛みを我慢して強く揉むことは、ガイドラインが勧めている方法ではありません。

そもそも「乳房マッサージ」に決まった定義はない

意外に思われるかもしれませんが、この言葉の中身は統一されていません。ガイドラインはこう断っています。

現在、臨床において助産師から母親に提供される乳房マッサージには、統一された名称、定義、方法はないため、ここでは定義と範囲を示す

そのうえでガイドラインは、助産師が乳房に対して行う直接的なケアをまとめて「乳房マッサージ」と呼び、働きかける部位を3つに分けています。乳頭と乳輪およびその下の組織(乳頭乳輪体)、乳腺体、そして乳腺体と大胸筋の境界です。

そして、このうち乳汁を外に出すことを目的にした行為が「搾乳」だと整理されています。つまり「マッサージ」という一つの決まった手技があるわけではなく、施設や助産師によって内容が違うのが実態です。「マッサージを受けたのに良くならなかった」「別のところでは全然違うことをされた」が起こるのは、このためです。

もう一点、区別されているものがあります。

乳房の状態を把握する(フィジカルアセスメント)のために行う触診は、乳房マッサージとは区別し乳房マッサージに含めない

状態を確かめるために触ることは、マッサージとは別物として扱われます。

エビデンスがあるのは「揉むこと」ではなく「乳汁を出すこと」

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。ガイドラインは、助産師による乳房マッサージと搾乳について正面から検討(CQ7)しており、その解説にこう書かれています。

今回の網羅的文献検索の結果、乳腺炎を発症した女性を対象とした乳房マッサージに関する介入研究は見つからなかった

マッサージそのものの効果を調べた研究は、見つからなかったということです。では何が推奨されているのか。

乳腺炎の女性が、医療者、特に助産師による搾乳(乳汁ドレナージ)を受けることは、乳房から効果的に乳汁が取り除かれ、乳腺炎症状が改善されるため推奨される。エビデンスとなる文献では、抗菌薬と併用した搾乳群がもっとも症状の持続日数が短く効果が出ていたので、必要に応じて抗菌薬を併用すること(弱い推奨)

推奨されているのは搾乳(乳汁ドレナージ)、つまり乳房から乳汁を効果的に取り除くことです。根拠になった研究の数字も具体的に示されています。

非感染性乳腺炎の症状持続平均日数:搾乳群3.2日、介入なし7.9日、感染性乳腺炎の症状持続平均日数:抗菌薬+搾乳群2.1日、搾乳のみ4.2日、介入なし6.7日

整理するとこうなります。

  • 感染していない乳腺炎:乳汁を出す 3.2日 / 何もしない 7.9日
  • 感染性の乳腺炎:抗菌薬+乳汁を出す 2.1日 / 乳汁を出すだけ 4.2日 / 何もしない 6.7日

感染性の乳腺炎では、抗菌薬と搾乳を組み合わせたときがいちばん短いという結果です。抗菌薬か搾乳かの二択ではありません。なお、ガイドラインはこの推奨について【エビデンスの確実性】低いと記載し、根拠となった研究に「ランダム化生成に関する情報不十分、非盲検化試験」という限界があることも明記しています。強い結論として受け取らないでください。

そのうえで、日本助産師会・日本助産学会はこう提案しています。

そのため、日本助産師会・日本助産学会は、乳腺炎症状改善のために、助産師が搾乳(乳汁ドレナージ)を実施することを提案する。ただし、乳腺炎は炎症性の疾患であるため、局所の安静を保つことを優先し、局所への過度な圧力を避け、痛みを伴わない搾乳(乳汁ドレナージ)を推奨する

「痛みを伴わない」が条件として書かれています。 痛みを我慢して強く揉むことに、ガイドライン上の裏づけはありません。うっ滞性乳腺炎と化膿性乳腺炎の違いはうっ滞性乳腺炎と化膿性乳腺炎の違いにまとめています。

助産師が乳房マッサージをするのは、法律で認められている

「マッサージは資格が要るのでは」と気になる方もいます。実際、日本には次の決まりがあります。

日本では、「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律」において、あん摩マッサージ指圧師免許もしくは医師免許がなければマッサージを業として行うことはできない、とされているが、助産師による乳房マッサージは、1960(昭和35)年6月13日医発第468号により法的根拠が示された

その通知の中身がこれです。

乳房マッサージは、妊婦又はじょく婦に対して、保健指導の範囲で行うものであれば、助産婦の本来の業務内容の一部であって(保健婦助産婦看護婦法第三条)、助産婦は、法第三八条に規定する場合を除いては、医師の指示を受けないでこれを行うことができ

つまり助産師の乳房ケアは、60年以上前から国が示している正規の業務です。安心して相談してよい相手だということです。どこに相談するかで迷う場合は乳腺炎はどこを受診する?を参考にしてください。

2018年から、保険が使えるケアになりました

あまり知られていませんが、制度が変わっています。

2018年から乳腺炎に罹患した母親に対する「乳房マッサージや搾乳等の乳腺炎に係るケア、授乳や生活に関する指導、心理的支援等の(中略)包括的ケア及び指導」が診療報酬の対象となった

これが「乳腺炎重症化予防ケア・指導料」です。ガイドラインは、その対象範囲をこう説明しています。

乳腺炎重症化予防ケア・指導料とは、入院中以外の乳腺炎の患者であって、乳腺炎が原因となり母乳育児に困難がある患者に対して、医師がケア及び指導の必要性があると認めた場合で、乳腺炎の重症化及び再発予防に係る指導並びに乳房に係る疾患を有する患者の診療について経験を有する医師又は乳腺炎及び母乳育児に関するケア・指導に係る経験を有する助産師が、当該患者に対して乳房のマッサージや搾乳等の乳腺炎に係るケア、授乳や生活に関する指導、心理的支援等の乳腺炎の早期回復、重症化及

読み取れる条件を整理します。

  • 入院中ではないこと
  • 乳腺炎が原因で母乳育児に困難があること
  • 医師がケア・指導の必要性を認めていること
  • 実施するのは、経験のある医師または助産師

ポイントは「医師がケア及び指導の必要性があると認めた場合」という部分です。助産院に直接行った場合ではなく、医療機関にかかったうえでという枠組みになります。実施している施設は限られるので、受診の際に「乳腺炎重症化予防ケア・指導料の対象になりますか」と聞いてみてください。自費の乳房ケアは1回数千円が相場で、繰り返すと負担になります。制度を知っているかどうかで、実際の出費が変わります。

ケアの前に行われる問診や、触れ方についてのガイドラインの考え方(温かい手でやさしく、痛い場所は自分で示してよい)は乳腺炎で母乳外来・助産院に行くと何をする?(聞かれること・見られるところ)にあります。

受ける前に、確認していいこと

ガイドラインには、助産師が守るべき留意点が並んでいます。これは裏返せば、受ける側が確認してよいことです。

乳房マッサージを行うことで母親が得られるメリット、デメリット、どのようなマッサージを行うか、施行時間、料金等を説明し、了承を得る

料金と時間と内容の説明は、ガイドラインが求めている手順です。聞くことは遠慮ではありません。さらに、こう続きます。

また自らの技量の限界によって乳房の状態の改善が難しいならば、その事実を告げる必要もある

「ここでは難しい」と伝えることも、ガイドラインに書かれた責務です。何度通っても変わらないとき、遠慮なく別の相談先を探してよい、ということでもあります。

痛みについても明確です。

触れ方、指手による圧力を微調整して、母親に決して痛みを与えないようにする

「決して痛みを与えないように」。この一文があるので、「痛いけれど効いているはず」と我慢する必要はありません。痛かったことは、その場で伝えてよい情報です。

もう一つ、見落とされやすい配慮があります。

乳房マッサージを行う時間、回数、授乳時間との間隔を考慮し、母親と子どもの授乳のペースが乳房マッサージによって乱されることがないように配慮する

ケアのために授乳リズムが崩れては本末転倒だ、という考え方です。予約の時間帯は、授乳の間隔に合わせて相談して構いません。

どんなときに搾るのか、その前に何をするのかは授乳の間隔があくと乳腺炎になる?に書いています。ガイドラインは、まず直接授乳を促すことを第一に置いています。

自分でできる搾乳を、身につけておく

ガイドラインは、他人に頼るケアと並んで、母親自身が手で搾乳できることを重視しています。

突然、 搾乳が必要になるときに備えて、 すべての母親が自身の手による搾乳を行えるよう支援する

「すべての母親が」とあります。夜間や休日、助産院が開いていない時間に張ってしまうことは珍しくありません。手で少し出せるだけで、朝まで持ちこたえられることがあります。夜間の判断は夜間・休日に乳腺炎になったらにまとめました。

家でできる範囲のケアは乳腺炎のセルフケアを参照してください。

繰り返さないために——ガイドラインが挙げる5つ

ガイドラインには「再発防止への支援」という独立した項目があり、5つが挙げられています。

①乳房が張り過ぎているときや乳管閉塞に対して適切に対応する——赤ちゃんが適切に吸着でき、制限のない授乳ができること。張り過ぎのときは手で搾ること。

②乳汁うっ滞のどのような徴候にもすぐに対処する——ガイドラインは、気づいたときの具体策をこう書いています。

うっ滞している徴候に気付いたら、休息をとり、授乳回数を増やす、含ませる方向を変える、温める、 しこりから乳頭に向かって自分でマッサージや搾乳をするなどして、 効果的に乳汁を取り除くことができるよう支援する

方向は「しこりから乳頭に向かって」です。しこりそのものを強く押しつぶす動きではありません。しこりや白斑への対処は乳房のしこり・乳頭の白い点に詳しく書いています。

③母乳育児継続にあたり、ほかに困難なことがあればただちに対処する——泣きやまない赤ちゃん、乳頭損傷、母乳不足感など。乳頭の痛みは授乳のたびに乳頭が痛いときを参照してください。

④休息を取る——ここは強い書き方です。

疲労はしばしば乳腺炎の誘因となるので、 母乳育児中は十分な休息をとるよう勧める

そして家族以外の利用可能なサービスについても情報提供し、母親から助けを求められるよう奨励するとしています。休むことは、ケアの一部として位置づけられています。

⑤衛生状態を保持する——黄色ブドウ球菌は病院にも地域にも存在するため、手指の衛生と搾乳器の洗浄を保つこと。

繰り返す人が見直したい、研究で示されたリスク因子

ガイドラインのCQ8には、研究で有意差が示されたリスク因子が一覧になっています。数字が大きいものから挙げます。

  • 乳頭亀裂(adjusted OR 9.34, 95 %CI 2.99–29.20)
  • 児の授乳困難(母親の報告)(adjusted OR 6.32, 95%CI 2.53–15.76)
  • きついブラジャーの着用(adjusted OR 3.47, 95%CI 1.30–9.22)
  • 児の鼻腔内黄色ブドウ球菌(adjusted OR 3.23, 95%CI 1.30–8.27)
  • 乳汁分泌量過多(IRR 2.60, 95% CI 1.58–4.29)
  • 乳頭損傷(IRR 2.17, 95% CI 1.21–3.91)
  • 吸着障害(IRR 1.96, 95% CI 1.18–3.24)

並べてみると、上位に来ているのは乳頭の傷と、赤ちゃんの吸わせ方です。マッサージを繰り返し受けるより、吸着を一度きちんと見てもらうほうが、再発予防としては筋がいいということになります。

またきついブラジャーが入っている点も見逃せません。ABM2014は乳腺炎の誘因として「乳房が圧迫されること(例:きついブラジャー、シートベルト)」を挙げています。サイズが合っているかは、今日すぐ確認できます。

なお、食べ物については、ガイドラインが同じ箇所で「特定の食物がヒトにおける乳腺炎のリスクであるというエビデンスはない」と明記しています。食事の制限より、休息と吸着です。食事の考え方は乳腺炎のときの食事と過ごし方にまとめています。

マッサージより先に、受診が要る場面

次のときは、乳房ケアより先に医療機関に相談してください。

  • 38.5℃以上の発熱がある、悪寒や関節痛がある
  • 乳房の赤みと痛みが強く、24時間経っても軽くならない
  • しこりの部分がぶよぶよして波打つように触れる(乳腺膿瘍の可能性)
  • 抗菌薬を飲み始めて48時間経っても改善しない
  • 赤みや皮膚のへこみが授乳をやめても引かない(乳がんとの見分け)

薬の考え方は授乳中の薬は大丈夫?を参照してください。乳腺炎そのものの基本は乳腺炎とは?に、予防の基本は乳腺炎を防ぐ授乳・搾乳のコツにまとめています。

まとめ

  • 「乳房マッサージ」に統一された定義はない。施設によって内容が違う
  • エビデンスがあるのは揉むことではなく乳汁を効果的に出すこと。マッサージ自体の介入研究は見つかっていない
  • 症状の持続日数は搾乳3.2日 対 何もしない7.9日、感染性では抗菌薬+搾乳2.1日がもっとも短い(ただしエビデンスの確実性は「低い」)
  • ガイドラインの条件は「痛みを伴わない」。我慢は不要
  • 料金・時間・内容の説明は、ガイドラインが求めている手順。聞いてよい
  • 2018年から保険の対象(乳腺炎重症化予防ケア・指導料)。医師が必要と認めた場合
  • 再発予防でいちばん効きそうなのは乳頭の傷と吸着。マッサージ通いより優先

参照ソース(一次情報)

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🩺 医師監修
本記事は医師が内容を確認しています。一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状が強いとき・改善しないときは医療機関を受診してください。
(情報更新日:2026-09-08)
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