乳腺炎かなと思ったとき、受診までの間にできることがあります。ただしセルフケアは受診の代わりではありません。ここに書いてあることをしても24時間で改善しない、あるいは悪化していくときは、迷わず受診してください。やったほうがよいことと、よかれと思ってやりがちなやってはいけないことの両方を挙げます。
いちばん大事なこと:乳汁を溜めない
乳腺炎は「乳汁が流れないこと」から始まります。したがって、セルフケアの中心は乳汁を溜めないことです。痛いからといって授乳を休むと、うっ滞が進んで悪化します。
- 痛む側も、できる範囲で授乳を続ける:完全に止めないことが大切です
- 授乳の回数を減らさない:間隔が空くほど溜まります
- 授乳後に張りが残るときは搾乳する:搾りきる必要はなく、楽になる程度で構いません
- つまっている側から先に飲ませる:赤ちゃんの吸う力がいちばん強いのは飲みはじめです
「乳腺炎の母乳を飲ませても赤ちゃんに害はないのか」と心配される方がいますが、乳腺炎そのものを理由に授乳を中止する必要は、一般にはありません。ただし個別の状況があるため、受診の際に確認してください。
抱き方を変えてみる
同じ抱き方ばかりだと、同じ部分の乳汁が残りやすくなります。つまっている部分の方向に赤ちゃんのあごが向くように抱き方を変えると、その部分の乳汁が出やすくなることがあります。
- 外側が硬いとき → フットボール抱き(脇に抱える)を試す
- 下側が硬いとき → 縦抱きを試す
- 上側が硬いとき → 赤ちゃんを寝かせて覆いかぶさるような姿勢を試す
うまくいかないときに無理をする必要はありません。抱き方の調整は、助産師や母乳外来がもっとも力を発揮する領域です。自分だけで解決しようとせず、相談してください。
授乳後に冷やす
授乳・搾乳のあとに、保冷剤をタオルで包んで10分程度冷やすと、痛みや腫れがやわらぐことがあります。
- 保冷剤を直接肌に当てない(凍傷を防ぐため必ずタオルで包みます)
- 冷やしすぎない(長時間続けない)
- 冷やすのは授乳の前ではなく後。授乳前に冷やすと乳汁が出にくくなることがあります
なお、冷やすと楽になるかどうかには個人差があります。冷やしてつらくなるならやめてください。
休息・水分・食事
「休んでください」は、産後にいちばん実行しにくい助言です。それでも、休息は治療の一部です。
- 横になれる時間をつくる。赤ちゃんが寝ているあいだの家事を一つ手放す
- 水分をこまめにとる。発熱があるときはとくに意識して
- 食事は普段どおりで構いません。特定の食品を厳しく制限する必要があるという根拠は乏しいとされています
- 可能なら、この期間だけでも家族や周囲に頼る
「自分が休むと家が回らない」と感じる方が多いのですが、乳腺炎を長引かせるほうが、結果として動けない時間が長くなります。
圧迫を避ける
意外な盲点になりやすい部分です。
- ワイヤー入りの下着、きついブラジャーを避ける
- うつ伏せ寝を避ける
- 抱っこひも・ショルダーバッグのベルトが乳房に食い込んでいないか確認する
- 赤ちゃんを抱くとき、腕で乳房を押していないか確認する
やってはいけないこと
- 自己流の強い乳房マッサージ:力を入れてもみほぐすと、乳腺組織を傷めて炎症を悪化させることがあります。「詰まりを押し出す」という発想での強い圧迫は逆効果になりえます。マッサージは助産師など専門家に相談してください。
- 熱いお風呂で長く温める:血流が増えて張りや痛みが強くなることがあります。シャワー程度にとどめましょう。
- 授乳をやめる・搾乳をやめる:もっとも悪化させる対応です。
- 市販薬の自己判断での使用:授乳中の薬は種類により注意が必要です。使う前に医師・薬剤師に相談してください。
- 白斑(乳頭の白い点)を自分で針などで開ける:感染の原因になります。医療機関で相談してください。
- 「熱が下がるまで様子を見る」:24時間を目安に、改善しなければ受診してください。
24時間で区切って考える
セルフケアを続ける期間の目安は24時間です。
- 改善に向かっている(熱が下がってきた、痛みが軽くなった)→ そのまま続けて、翌日以降に母乳外来などへ相談
- 変わらない・悪化している→ 受診してください
- 最初から38℃以上の発熱や強い全身症状がある→ 24時間待たずに受診してください
なお、ぐったりして立てない、寒気で体が震える、乳房の一部がぶよぶよと柔らかいといったサインがあるときは、時間帯にかかわらず医療機関に連絡してください。夜間・休日で迷うときは♯7119で相談できます。
乳頭が痛くて直接授乳ができないときも、乳汁を溜めたままにはしません。痛みの原因ごとの対処は授乳のたびに乳頭が痛いときにまとめています。
搾乳をどう使うか
赤ちゃんが飲んでくれない、痛くて授乳が続けられないというとき、搾乳が助けになります。ただし使い方にコツがあります。
- 搾りきらない:完全に空にすると「もっと必要だ」という信号になり、乳汁の産生が増えて、かえって溜まりやすくなることがあります。張りがつらくなくなる程度で止めてください
- 手搾りでも十分:搾乳器がなければ手で搾って構いません
- 搾乳器は圧を上げすぎない:強すぎる吸引は乳頭を傷めます
- 清潔に扱う:手を洗い、器具は洗浄・消毒したものを使います。乳頭に傷があるときはとくに重要です
搾乳のペースや量は、状況によって適切な形が変わります。判断に迷うときは母乳外来や助産院で相談してください。
家族にお願いできること
乳腺炎のセルフケアは、本人だけで完結しません。周囲の方が読んでいる場合のために、具体的に書いておきます。
- 横になる時間をつくる:赤ちゃんを抱いている、上の子を見る、といった1時間が回復を早めます
- 家事を引き取る:食事の用意、洗濯、買い物
- 受診に付き添う/送迎する:発熱があるなかでの移動は大きな負担です
- 「頑張って」と言わない:本人はすでに十分頑張っています。代わりに具体的な作業を引き受けてください
よくある質問
キャベツの葉を当てるとよいと聞きました
民間で広く知られている方法ですが、効果を裏づける確かな根拠が十分にあるとは言えません。冷やすこと自体が心地よく感じられる方はいますが、これで受診の必要がなくなるわけではありません。症状が改善しないときは、方法を探し続けるより受診を選んでください。
詰まりを解消する食べ物はありますか
特定の食品で乳腺炎が治る、あるいは特定の食品を避ければ防げる、という考え方には確かな根拠が乏しいとされています。食事を厳しく制限すると、産後の回復に必要な栄養が不足することもあります。普通に食べて、水分をとって、休むことのほうが確実です。
痛くて眠れません。我慢すべきですか
我慢が最善とはかぎりません。眠れない状態が続くこと自体が回復を遅らせます。授乳中に使える薬もありますので、受診の際に「痛くて眠れない」とはっきり伝えてください。夜間で受診できないときは、手元の薬を自己判断で飲む前に♯7119や薬局に相談する方法もあります。
受診するとき
参照ソース(一次情報)
- 厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」|授乳期の支援に関する国の指針
- 公益社団法人 日本助産師会|助産師による母乳ケアの一般向け情報
- 公益社団法人 日本産科婦人科学会|産婦人科領域の一般向け情報
- 東京消防庁「救急相談センター(♯7119)」|夜間・休日の受診相談窓口