授乳のたびに乳頭が痛い。歯を食いしばって耐えている。そんな状態が続いているなら、「慣れれば治る」で乗り切る前に、痛みの出方を確かめてください。乳頭の痛みには原因がいくつもあり、原因によって対処がまったく違うからです。このページでは、日本助産師会『乳腺炎ケアガイドライン2020』の記載をもとに、痛みが出るタイミングから原因をしぼり込む考え方と、受診の目安を整理します。
乳頭の痛みは我慢し続けるものではありません。ガイドラインは、乳頭痛を母親が母乳育児をやめてしまう主な原因のひとつとして挙げ、痛みの体験と産後のうつとの関係も指摘しています。痛みが数日で軽くならない、乳頭に傷がある、熱が出た――このいずれかがあれば相談してください。
まず、痛みが出る「タイミング」を確かめる
乳頭の痛みは、見た目だけでは原因が分かりにくいことがあります。手がかりになるのは、いつ痛むかです。次の3つのどれに近いかを思い出してください。
| 痛みのタイミング | 痛みの感じ方 | まず考えること |
|---|---|---|
| ① 吸われている間だけ痛い (口を離すと軽くなる) |
引っぱられる痛み・こすれる痛み。乳頭に傷や亀裂、白っぽい線がある | 吸着(くわえ方)による乳頭の損傷 |
| ② 授乳と授乳の間もずっと痛い | 焼けるような痛み、かゆみ、針で刺されるような痛み。乳頭が赤く光沢がある | 感染(カンジダなど) |
| ③ 授乳が終わった直後に痛む | 乳頭が白っぽく(青白く)変色し、しばらくしてから強く痛む。寒いときに起きやすい | 乳頭の血管のれん縮(レイノー現象) |
この3つは重なることもありますが、どれが主役かで対処が変わります。以下、順に説明します。
ガイドラインが挙げている乳頭痛の原因
『乳腺炎ケアガイドライン2020』は、乳頭痛を次のように定義しています。
母親が主観的に体験する乳頭の痛み。痛みの原因は、不適切な吸着や児の飲み方、搾乳による乳頭のダメージによるもの、湿疹や母体の疾患に起因した皮膚科的な要因、感染、血管攣縮、乳管閉塞、乳汁分泌過多、paget病が挙げられている
原因が8種類も並んでいることが、この症状の難しさを表しています。そして同じ項目に、次の一文が続きます。
乳頭痛は、授乳がうまくできない、母乳分泌が心配であることに次いで、母親が母乳育児をやめてしまう主な原因として挙げられている。また、痛みの体験は、産後のうつとの関係も指摘されている
つまり乳頭の痛みは、母乳育児が続くかどうかを左右するほど大きな問題として扱われているということです。「これくらいで相談してよいのだろうか」と迷う必要はありません。
① 吸われている間だけ痛い ── くわえ方(吸着)の問題
いちばん多い原因です。赤ちゃんが乳頭の先だけを浅くくわえていると、乳頭が上あごと舌のあいだで強くこすられ、傷ができます。授乳のたびに同じ場所がこすれるので、痛みは授乳のたびに繰り返します。
見分けるポイントは「口を離すと痛みが軽くなる」ことです。乳頭の先に亀裂、白っぽい線状のすじ、皮がむけた部分、かさぶたが見つかることもあります。
ガイドラインは、乳房が張りすぎた状態がこれを悪化させると説明しています。
乳房緊満は、二次的に乳頭の陥没や扁平化を引き起こし、その結果、授乳困難を引き起こす。吸着できた場合にも浅い吸着となり、乳頭損傷の原因となりやすく、乳腺炎へと進むことがある
張りが強いと乳輪が硬くなり、赤ちゃんが深くくわえられません。深くくわえられないから浅い吸着になり、乳頭が傷つく――という流れです。授乳前に乳輪を少しやわらかくしてから含ませると、この連鎖が切れることがあります。
くわえ方そのものは文章で直しきれない部分があります。ガイドラインのCQ1は、妊娠期の女性に授乳姿勢と吸着の仕方を学ぶ機会を提供することについて、「乳頭痛や乳頭損傷の予防に効果がある可能性があり」と述べたうえで推奨の強さを「弱い推奨」とし、【エビデンスの確実性】低いと記載しています。裏を返せば、実際の授乳場面を見てもらうこと以上に確実な方法はないということです。助産師や母乳外来で一度見てもらってください。予防の考え方は乳腺炎を防ぐ授乳・搾乳のコツにまとめています。
張りが強くて乳輪が硬いときの対処は、産後2〜3日で胸が張って痛いときで詳しく説明しています。
② 授乳と授乳の間もずっと痛い ── 感染(カンジダなど)
吸われていないときにも痛みが続く場合は、感染を考えます。ガイドラインはカンジダ症について、乳頭に現れる所見をこう記載しています。
乳頭がカンジダ症にり患した場合、乳頭は赤く光沢があり、ただれているようになるか、単にピンク色をしている場合もある。乳輪は不規則に光沢を帯びていることもある。自覚症状として、何日間にもわたる授乳と授乳の間の焼けるような痛み、かゆみ、乳頭が針で刺されるような痛みを訴えることもある
ポイントは3つです。
- 痛みが授乳のあいだだけで終わらない(吸着による損傷との最大の違い)
- 焼けるような痛み・かゆみ・刺すような痛みという表現が当てはまる
- 乳頭が赤く光沢がある、あるいはピンク色。傷がないのに痛いこともある
赤ちゃんの口の中に白い苔のようなもの(鵞口瘡)がないかも確認してください。ガイドラインは口腔カンジダ症について「口腔粘膜あるいは舌に偽膜や白苔が付着し、炎症性の紅潮をともなう」と記載しています。母子のあいだで行き来することがあるため、治療は母子で同時に行うかどうかの判断が必要です。市販薬で自己判断せず、受診してください。
なお、糖尿病がある方は注意が必要です。ガイドラインには「糖尿病の母親は、皮膚損傷から細菌や真菌が感染しやすく、蜂窩織炎、乳腺炎、カンジダ症になりやすい」と明記されています。妊娠糖尿病だった方も、この点は主治医に伝えておいてください。薬の考え方は授乳中の薬は大丈夫?乳腺炎の治療の考え方をご覧ください。
③ 授乳の後に乳頭が白くなって痛む ── 血管のれん縮(レイノー現象)
あまり知られていませんが、ガイドラインの用語集に独立して記載されている状態です。
寒冷や激しい感情の動きによって指動脈、細動脈がれん縮して間欠的に虚血となり、手指の白色化、しびれ、疼痛がおこる。乳頭においてもこの現象が観察され、乳頭の青白い変色と、疼痛がみられる
典型的には、赤ちゃんが口を離した直後に乳頭が白っぽくなり、そのあと血が戻るときに強く痛みます。寒い部屋での授乳、入浴後に体が冷えたとき、夜間の授乳で起こりやすくなります。もともと手指が冷えで白くなりやすい方は、この可能性を頭に置いてください。
この場合、乳頭の傷を治そうとしても痛みは変わりません。授乳前後に乳頭を冷やさないこと――部屋を暖めておく、授乳後すぐに乾いた布や衣服で覆う、濡れたまま外気に当てない――が対処の中心になります。改善しないときは、原因となる病気がないかも含めて相談してください。
白斑(乳頭の白い点)とは別のものです。ガイドラインは「乳頭上の白斑」から除外すべきものとして、皮脂嚢胞・咬傷・血管のれん縮、乳頭の虚血・乳頭のレイノー現象を挙げています。乳頭が白いからといって、すべてが白斑(乳口炎)ではありません。白斑については乳房のしこり・乳頭の白い点(白斑・乳口炎)の対処をご覧ください。
乳頭の傷を放置してはいけない理由
痛みそのものがつらいのはもちろんですが、乳頭の傷にはもうひとつ意味があります。細菌の入り口になるということです。
ガイドラインは乳腺炎の感染経路について、①乳管経由で乳腺葉に入る、②血行性に広がる、③乳頭亀裂から乳管周囲のリンパ系に入る、というルートを挙げたうえで、「乳頭亀裂により感染が起こりやすいことが確認されている」としています。
また、こうも記載されています。
出産後数週間で起こる乳腺炎は乳頭損傷から起こっている可能性が高い。表皮の欠損は細菌の乳房内組織への通り道となるが、必ずしも乳頭損傷のすべてが乳房の感染に結びつくのではない
後半の一文が大切です。傷があるからといって必ず乳腺炎になるわけではありません。ただし、産後まもない時期の乳腺炎は乳頭の傷から始まっていることが多いので、傷は「痛いから」ではなく「入り口だから」直す価値があります。乳腺炎になったときの経過はうっ滞性乳腺炎と化膿性乳腺炎の違いにまとめています。
「よかれと思って」が逆に働くことがある3つ
ガイドラインには、乳腺炎のリスク因子を調べた研究の一覧と、その解釈上の注意が併記されています。ここは読み方に注意が必要なところです。
乳頭クリーム
研究ではリスク因子として挙がっていますが、ガイドラインは注釈で「乳頭痛や乳頭亀裂(乳腺炎のリスク因子)がある女性が乳頭のクリームを使用しているためリスク因子に上がった可能性がある」と説明しています。クリームが乳腺炎を起こすという意味ではありません。痛い人が使うから統計上一緒に出てくる、という読み方です。使ってはいけないものではないので、自己判断で中止する前に相談してください。
搾乳器
こちらは注釈でも直接の因果が示唆されています。「搾乳器の頻繁な使用により、乳頭痛や乳頭の傷につながっている可能性が考えられ、それにより乳腺炎のリスクが上昇している可能性がある」。吸引圧が強すぎる、装着部(フランジ)のサイズが合っていない、長時間かけている――このあたりは見直す価値があります。
ニップルシールド
これも研究ではリスク因子として出てきますが、注釈は「乳頭に傷のある女性がニップルシールドを使用しているため、リスク因子になった可能性がある」としています。傷を守る目的で使うこと自体を否定するものではありません。ただし、使い続けているのに痛みが変わらないときは、根本にある吸着の問題が残っている可能性があります。
痛くて直接授乳ができないときはどうするか
「痛くても飲ませ続けなければいけない」と考えて限界まで我慢される方がいますが、ガイドラインは搾乳が必要になる場面を明示しています。
乳腺炎に罹患し、乳管口から膿が排出している場合、乳頭に亀裂や損傷、びらん、潰瘍があり乳頭痛が強い場合、乳輪に切開創がある場合など、直接授乳ができないときは搾乳が必要になる
大事なのは「飲ませない」ではなく「別の方法で乳汁を出す」ことです。乳汁を溜めたままにすると、うっ滞から乳腺炎に進みます。痛みが強い側を一時的に搾乳に切り替え、傷が落ち着いてから直接授乳に戻す、という進め方もあります。どの方法をどれくらいの期間とるかは、乳房の状態を見てもらったうえで決めてください。
これは受診してください
| こんなとき | どうするか |
|---|---|
| 38度台の熱+乳房の一部が赤く硬い | 乳腺炎として対応が必要です。夜間・休日の判断も参考に |
| 授乳と授乳の間も焼けるように痛む日が数日続く | 感染の可能性。市販薬で様子を見ずに受診を |
| 乳頭の傷から出血する/黄色い浸出液が出る/悪臭がある | 受診。細菌感染が加わっている可能性があります |
| 乳頭・乳輪のただれ(びらん)が片側だけで、治らない | 受診。ガイドラインは「乳頭のびらんを伴うものにパジェット病がある」と記載しています |
| 最近になって乳頭が引き込まれてきた | 受診。もともとの陥没乳頭と、最近始まった変化とは区別が必要です |
| 痛みで授乳をやめようか迷っている | やめる前に相談を。続ける・減らす・休むのどれを選ぶにしても方法があります |
どこに行けばよいか迷うときは乳腺炎はどこを受診する?を、電話で伝えることは受診前チェックリストをご覧ください。お住まいの区で相談できる施設はトップページからさがせます。
痛みではなく「気持ちが沈む」とき ── D-MER
最後にひとつ、痛みと混同されやすい状態に触れておきます。ガイドラインの用語集に「不快性射乳反射(D-MER)」として記載されているものです。
母乳育児中の母親の射乳反射の30〜90秒前に、胃の不快感、不安、悲しみ、恐怖、気分の落ち込み、緊張、感情的な動揺、いらいら、絶望感、否定的な感情が現れ、射乳反射のたびに繰り返される不快症状。個人の成育歴や分娩の体験などは影響しない。ドーパミンが介在していることはわかっているが、症状が出る母親とそうでない母親がいる理由はわかっていない
授乳のたびに気持ちがすっと落ちる、母乳が出る直前だけ嫌な感じがする――そういう体験をしている方は、性格や育ってきた環境のせいではありません。射乳反射に伴う生理的な現象として記載されているものです。名前がついていることを知るだけでも楽になることがあります。授乳をやめる理由を探す前に、この言葉を相談先で出してみてください。
まとめ
- 乳頭の痛みは「いつ痛むか」で原因をしぼり込む。吸われている間だけ/間もずっと/授乳後に白くなってから、の3つ
- 吸われている間だけならくわえ方(吸着)。文章より、実際の授乳を見てもらうのが早い
- 授乳と授乳の間も焼けるように痛むなら感染を考える。赤ちゃんの口の中も見る
- 授乳後に乳頭が白くなってから痛むなら血管のれん縮。冷やさない工夫が中心。白斑とは別のもの
- 乳頭の傷は細菌の入り口。産後まもない乳腺炎は乳頭損傷から始まっていることが多い
- 痛くて直接授乳できないときは、やめるのではなく搾乳に切り替える
- 乳頭痛は母乳育児をやめる主な原因のひとつ。我慢の量で解決する問題ではありません
参照ソース(一次情報)
- 公益社団法人日本助産師会『乳腺炎ケアガイドライン2020』(2版)|乳頭痛の定義と原因、カンジダ症・レイノー現象の記載、感染経路、リスク因子研究の一覧と注釈、搾乳が必要な場合、CQ1(妊娠期の授乳支援)。本記事の引用はすべてこの資料の記載によります
- 公益社団法人日本助産師会「乳腺炎ケアのフローチャート」|乳腺炎の重症化予防と医療連携の判断
- こども家庭庁「授乳・離乳の支援ガイド」(2019年改定版)|授乳期の支援の基本方針、抱き方と含ませ方の支援