【医師監修】産後2〜3日で胸が張って痛いとき|生理的な「充満」と乳房緊満・乳腺炎の見分け方

【医師監修】産後2〜3日で胸が張って痛いとき|生理的な「充満」と乳房緊満・乳腺炎の見分け方(母乳ナビ・医師監修)

出産から2〜3日、乳房が両側とも張って硬くなり、熱っぽくて痛い。「これは乳腺炎ですか」と相談されることの多い状態です。結論から言うと、この時期の「両側・乳房全体」の張りは、多くの場合まだ乳腺炎ではありません。ただし放っておいてよいわけでもなく、この張りこそが乳腺炎の入口です。このページでは、日本助産師会『乳腺炎ケアガイドライン2020』の記載をもとに、生理的な「充満」と、対処が必要な「乳房緊満」の見分け方を整理します。

まず、いちばん大きな分かれ目をお伝えします。両側で、乳房全体が張っているのか。片側で、乳房の一部だけが硬いのか。ガイドラインは、うっ滞性乳腺炎・感染性乳腺炎をいずれも「通常片側性」「限局的」と記載しています。両側・全体の張りは、まず別の状態として考えます。

なぜ産後2〜3日で急に張るのか

偶然ではなく、体の側に決まったスケジュールがあります。ガイドラインは乳汁が作られる過程を3つの段階に分けています。

【乳汁生成Ⅱ期】産後3日から8日の乳汁生成の段階である。母親のプロゲステロンの急激な減少により引き起こされ、大量の乳汁分泌が開始される。乳房が充満し、温かみを持つ。内分泌調節から局所調節に切り替わる

妊娠中から産後2日目までが乳汁生成Ⅰ期で、量はまだ多くありません。そこから産後3日〜8日にかけて、ホルモンの変化によって一気に分泌が始まるのが乳汁生成Ⅱ期です。張るのは、赤ちゃんの飲む量とは関係なく体の側が量を決めている時期だからです。

ちなみに、需要と供給が釣り合うようになるのはその後です。

【乳汁生成Ⅲ期】産後9日目から乳房退縮期までをいう。乳汁の産生量は乳児の乳房から飲む量(需要)によって産生される(供給)というオートクリンコントロールとなる

「飲む量に合わせて作られる」ようになるのは産後9日目から。それまでの数日は、体が先に作ってしまう時期だと知っておくと、この張りに驚かずに済みます。

「乳房の充満」と「乳房緊満」は、別のものとして書き分けられている

一般には両方まとめて「張り」と呼ばれますが、ガイドラインは別々に扱っています。用語集では「乳房緊満」=乳房の病的緊満とされ、生理的なものは「乳房の充満」と呼び分けられています。付録のアトラス(見分けの一覧表)から、産褥早期に関係する3つを抜き出すと次のようになります。

乳房の充満
(=生理的乳房緊満)
乳房緊満
(=病的乳房緊満)
乳管(口)の閉塞による
乳汁のうっ滞
時期 産褥1〜3日ころ 産褥2〜3日ころ 分泌が増加し始めた後・授乳期全期
部位 両側性 両側性 両側または片側性
腫脹 乳房全体 乳房全体 乳腺葉に限局的
発赤 わずかに 乳房全体 ほとんどなし
熱感 わずかに 乳房全体 わずかまたはなし
所見 乳房全体がわずかに硬い 乳房全体が硬い 乳腺葉が腫脹しボコボコした硬いしこり
体温 発熱なし 38.5℃未満 微熱 発熱なし
疼痛 わずかに 乳房全体 強い 腫脹部の痛みは軽度
抗菌薬 不要 不要 不要

読み取っていただきたいのは3つです。

  • 充満と緊満の違いは「程度」。どちらも両側・乳房全体で、緊満のほうが硬く、赤く、熱く、痛い
  • 病的な緊満でも、抗菌薬は「不要」と書かれている。細菌感染ではないからです
  • 乳管の閉塞は「乳腺葉に限局的」「ボコボコした硬いしこり」。全体が均一に張るのとは手ざわりが違う

微熱が出ても、それだけで乳腺炎とは限らない

上の表で、いちばん誤解されやすいのがここです。病的な乳房緊満では「38.5℃未満 微熱」が起こりうると、ガイドラインの表に明記されています。「熱が出た=乳腺炎=抗菌薬」ではありません。

では、どこから乳腺炎なのか。ガイドラインは乳腺炎の定義をこう記載しています。

乳腺炎は、圧痛、熱感、腫脹のあるくさび形をした乳房の病変(限局性の病変)で、38.5℃以上の発熱、悪寒、インフルエンザ様の身体の痛みおよび全身症状を伴うものである、と臨床的に定義されている

キーワードは「くさび形」「限局性」「38.5℃以上」です。乳房全体が均一に張っているのか、一部がくさび形に硬く赤いのか。ここが分かれ目になります。

ただし、同じ定義文はこうも続きます。

乳房の緊満や、乳管の閉塞・つまりがあれば、発赤、疼痛、熱感がすべて起こりうるが、その場合、必ずしも感染が存在するわけではない。乳管閉塞、非感染性乳腺炎、感染性乳腺炎、膿瘍と一続きに変化していくようである

「一続きに変化していく」——これが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。緊満と乳腺炎は別々の病気ではなく、地続きです。だから「まだ乳腺炎ではない」は「まだ何もしなくてよい」ではありません。うっ滞性乳腺炎と化膿性乳腺炎の違いはうっ滞性乳腺炎と化膿性乳腺炎の違いにまとめています。

この張りを放置してはいけない理由

ガイドラインは、乳腺炎のリスク因子を調べた研究を一覧にしています。そのなかで、イランの前向きコホート研究(産後12週まで672人を追跡)の結果として挙げられている数字が、群を抜いています。

リスク因子 調整オッズ比(95%信頼区間)
乳房緊満 156.35(31.33–780.18)
乳頭亀裂 21.16(5.09–87.90)
授乳中の痛み 13.63(2.05–90.57)
搾乳 11.30(4.06–31.39)
授乳回数の減少 3.91(1.29–11.88)

信頼区間が広く、単一の研究であることには注意が必要ですが、乳房緊満はこの表のなかで最も大きく乳腺炎に結びついている項目です。「張っているだけ」を放っておくと、その先に乳腺炎があるということが、数字としても示されています。

なお表の「搾乳」については、ガイドライン自身が「乳腺炎の原因ではなく、結果である可能性がある」と注釈をつけています。搾乳が悪いという意味ではありません。トラブルがあるから搾乳している、という向きの説明です。同じ型の注釈は乳頭クリームやニップルシールドにもついています。

張りが強いと、なぜ授乳がうまくいかなくなるのか

張りが乳腺炎につながる道すじも、ガイドラインに書かれています。

乳房緊満は、二次的に乳頭の陥没や扁平化を引き起こし、その結果、授乳困難を引き起こす。吸着できた場合にも浅い吸着となり、乳頭損傷の原因となりやすく、乳腺炎へと進むことがある

順番はこうです。

  1. 乳房全体が張って、乳輪まで硬くなる
  2. 硬い乳輪は赤ちゃんの口の中で形を変えられず、乳頭が平らに(または引っ込んで)見える
  3. 深くくわえられないので浅い吸着になる
  4. 乳頭の先だけがこすられて傷ができる
  5. 傷は細菌の入口になり、飲み残しも増えて乳腺炎へ

「張っているのに飲ませられない」という悪循環は、この2段目で起きています。だから対処も、乳房全体を強く搾ることではなく、まず乳輪をやわらかくして、くわえられる形に戻すことから始まります。ガイドラインも、助産師が行うケアの説明のなかで「乳房緊満や乳輪の浮腫によって硬くなった乳輪や乳頭を柔らかくする動作」を挙げています。乳頭の痛みそのものについては授乳のたびに乳頭が痛いときをご覧ください。

家でできること

やること ポイント
授乳の間隔をあけない ガイドラインは、ABM2014が「乳房の充満や乳管閉塞に対する効果的な対処として、授乳を制限しないことを推奨している」と紹介しています
含ませる前に乳輪をやわらかく 硬いままだと深くくわえられません。乳輪のまわりをやさしく圧してから含ませます
飲めないときは搾って「楽になるまで」 空にしきる必要はありません。深くくわえられる硬さまで戻せば十分です
授乳後に冷やす 後述のとおり、心地よいと感じる場合に
締めつけない きついブラジャーは、ガイドラインが乳腺炎の誘因として挙げている項目のひとつです

「授乳を制限しない」について、ガイドラインのCQ(クリニカルクエスチョン)はこう提案しています。

児の欲求回数は、1日に5回~15回といわれ個人差がある。一方、児の欲求の状況が通常と異なる、もしくは、児の欲求に授乳中の女性が応えられないような状況で授乳間隔が延長し、乳房に違和感や痛みを感じるほど乳汁がうっ滞すると、乳腺炎のリスクとなりうる。その場合には、第一に直接授乳を促し、それが不十分もしくはできない場合には自身による搾乳、さらに不十分な場合には助産師による搾乳で乳房内の乳汁のうっ滞を軽減させることを提案する

順番が決まっています。①直接授乳 ②自分で搾乳 ③助産師による搾乳。いきなり強く搾るのではなく、まず飲ませることから始めてください。予防全般の考え方は乳腺炎を防ぐ授乳・搾乳のコツに、セルフケアは乳腺炎のセルフケアにまとめています。

冷やす・温めるは、どこまで分かっているか

ガイドラインには、冷湿布についてのCQがあります。結論はこうでした。

【推奨】今回は該当する研究が見つからず、エビデンスが存在しなかった。【エビデンスの確実性】評価できず

そのうえで、日本助産師会・日本助産学会は次のように提案しています。

乳腺炎の患側乳房に冷湿布をすることは、熱感や痛みを和らげる可能性があるので、乳腺炎に罹患している女性が心地よいと感じれば、冷湿布を使用することを提案する。その際の第一選択肢として冷却ジェルシートや、過冷却を避けるため冷凍されていない保冷材を使用することを提案する。また、本人が心地よいと感じる場合には、授乳直前や授乳中に温湿布を使用することも提案する

整理すると、冷やすのは授乳のあと、温めるのは授乳の直前か授乳中。どちらも「心地よければ」が条件で、我慢して続けるものではありません。凍った保冷剤を直接当てるのは避けてください。

よく見かけるけれど、第一選択にはしない2つ

ネット上でよく紹介されていて、ガイドラインが「勧めない」と書いているものが2つあります。理由まで知っておくと迷わずに済みます。

① キャベツの葉を貼る

国内外では乳房の腫れに対してキャベツを貼付することが行われている。一方、海外では土壌中に存在するリステリア菌によるリステリア感染症発症の報告があることから、安全性の点からキャベツの葉等の植物の葉を湿布材の第一選択として使用しないことを提案する

効かないから、ではありません。土に由来する菌が問題だという理由です。痛みをやわらげる目的なら、冷却ジェルシートで代えがききます。

② 葛根湯を飲む

乳腺炎症状の改善を期待して慣例的に葛根湯が用いられている。一方、乳腺炎症状を改善する効果の根拠は不明である。そのため、日本助産師会・日本助産学会は、助産師が乳腺炎症状を改善する目的で、葛根湯の服用を勧めることは提案しない

「飲んではいけない」ではなく、助産師が勧めることは提案しないという書き方です。処方されたものを自己判断でやめる必要はありません。授乳中の薬については授乳中の薬は大丈夫?乳腺炎の治療の考え方をご覧ください。

これは相談してください

こんなとき 考えること
片側の、乳房の一部だけが赤く硬い 全体の張りではなく限局性の病変。乳腺炎として対応が必要です
38.5℃以上の発熱・悪寒・関節痛 ガイドラインの乳腺炎の定義に当てはまります。受診を
張っているのに、赤ちゃんがくわえられない 乳輪の浮腫で乳頭が扁平化している可能性。授乳を見てもらってください
硬い部分に波動(ぶよぶよ)を触れる 乳腺膿瘍の可能性。受診を
数日たっても張りが引かない・強くなる 生理的な経過から外れています。相談してください
夜間・休日に急に悪化した 夜間・休日に乳腺炎になったらを参考に判断してください

どこに行けばよいか迷うときは乳腺炎はどこを受診する?を、電話で伝えることは受診前チェックリストをご覧ください。お住まいの区で相談できる施設はトップページからさがせます。

授乳をやめる必要はありません

張りが強いと「一度やめて休ませたほうがいいのでは」と考えたくなりますが、ガイドラインの考え方は逆です。乳腺炎になった場合についてですが、こう記載されています。

乳腺炎および膿瘍のある母親が授乳を継続することは、その女性の回復と児の健康にとって重要である。授乳中止は乳腺炎の回復には役立たず、かえって状態を悪化させる危険が生じる。さらに、心の準備ができていない状態での授乳中止は、その母親に深刻な情緒的ストレスを与えることもある

まして、まだ乳腺炎になっていない張りの段階です。出すことが対処そのものだと考えてください。なお、卒乳・断乳のときの張りは別の話になります。ガイドラインも「特に産後初期で乳汁分泌が多いときに突然授乳が減ると、乳房緊満や乳頭閉塞のリスクが高くなる可能性がある」としています。進め方は卒乳・断乳のときの乳腺炎・張りを防ぐ進め方をご覧ください。

まとめ

  • 産後2〜3日の張りは乳汁生成Ⅱ期によるもの。飲む量に合わせて作られるようになるのは産後9日目から
  • 最初の分かれ目は「両側・乳房全体」か「片側・一部」か。乳腺炎は通常片側性・限局性
  • ガイドラインは「乳房の充満」(生理的)と「乳房緊満」(病的)を書き分けている。どちらも抗菌薬は不要
  • 病的な緊満では38.5℃未満の微熱が出うる。乳腺炎の定義は38.5℃以上+くさび形の限局性病変
  • ただし「乳管閉塞・非感染性乳腺炎・感染性乳腺炎・膿瘍と一続きに変化していく」。まだ乳腺炎でない=放置してよい、ではない
  • 対処の順番は①直接授乳 ②自分で搾乳 ③助産師による搾乳。まず飲ませる
  • 強く搾るより乳輪をやわらかくして、くわえられる形に戻すことが先
  • キャベツの葉は第一選択にしない(リステリア)。葛根湯を勧めることは提案されていない

参照ソース(一次情報)

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🩺 医師監修
本記事は救急科専門医が内容を確認しています。一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状が強いとき・改善しないときは医療機関を受診してください。
(情報更新日:2026-09-02)
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