【医師監修】産後ケアは乳腺炎に使える?|対象になる場面・ならない場面と申し込み前の確認

【医師監修】産後ケアは乳腺炎に使える?|対象になる場面・ならない場面と申し込み前の確認(母乳ナビ・医師監修)

乳腺炎で調べていくと、多くの方が「区の産後ケアが使えるのでは」というところに行き着きます。実際、産後ケア事業のケア内容には乳房のケアがはっきりと含まれています。ただし同じガイドラインには「除外となる者」という規定もあり、乳腺炎の状態によってはそこに当たると判断されることがあります。このページは、国のガイドラインと法律の条文をもとに、産後ケアが使える場面・使えない場面と、申し込む前に確かめておくことを整理したものです。

先にお伝えしておくと、産後ケアは申請から利用までに日数がかかる仕組みです。38℃台の熱と悪寒がある、赤みが広がっている、しこりがぶよぶよしてきたというときは、産後ケアの手続きを進める前に医療機関へご連絡ください。

結論から:産後ケアは「乳腺炎の治療」ではない

産後ケア事業は、母親の体の回復と心の安定を支え、育児を続けていけるようにするための市区町村の事業です。国のガイドラインは、その内容として「母親への身体的ケア、適切な授乳が実施できるためのケア(乳房のケアを含む)、心理的ケア、育児の手技についての具体的な指導及び相談」などを挙げています。乳房のケアは、確かに産後ケアの守備範囲です。

一方で、産後ケアは診断や治療を行う医療サービスとして設計されていません。抗菌薬を出す、エコーで膿がたまっていないか確認する、たまっていれば抜く――こうした処置は医療機関の仕事です。産後ケアの現場にいるのは主に助産師で、それは「乳汁の流れを立て直す」ことにおいては非常に頼りになる専門職ですが、感染が進んだ乳腺炎を治す立場にはありません。

つまり、産後ケアは乳腺炎になる手前と、治ったあとに効くと考えるのが実際に近いです。この記事では、その線引きがどこにあるのかを、根拠になっている文書に沿って見ていきます。

産後ケア事業とは──法律に位置づけられた市区町村の事業

産後ケア事業は、母子保健法第17条の2に定められています。条文は、市町村が「出産後一年を経過しない女子及び乳児」で産後ケアを必要とする方について、次の事業を行うよう努めなければならないとしています。

類型 条文上の内容 一般的な呼ばれ方
短期入所 病院・診療所・助産所などに短期間入所させて産後ケアを行う 宿泊型・ショートステイ
通所 産後ケアセンターなどに通わせて産後ケアを行う デイサービス型・日帰り型
居宅訪問 自宅を訪問して産後ケアを行う アウトリーチ型・訪問型

ここで押さえておきたいのは、実施主体が市区町村だという点です。国はガイドラインで枠組みを示しますが、対象の細かい条件・回数・自己負担額・どの施設に委託するかは、お住まいの区市町村が決めています。隣の区で使えたものが自分の区では条件が違う、ということが普通に起こります。

なお産後ケア事業は、子ども・子育て支援法にもとづき令和7年4月から「地域子ども・子育て支援事業」に位置づけられました。都道府県が広域的な調整を担うことになり、受け皿を増やす方向で制度が動いている段階です。数年前に調べた情報が今も同じとは限らないので、利用する年度の区の案内を見るようにしてください。

対象になるのは誰か

ガイドラインは対象者を「出産後1年以内の女子であって、産後ケアを必要とする者」としています。加えて、次のような整理がされています。

  • 初産・経産は問わない。初産では初めての育児への不安、経産では上の子の育児負担があり、いずれも身体的・心理的な負担を抱えているため
  • 乳児は「自宅において養育が可能である者」。医療的ケア児などの場合は、居宅訪問型を活用するなど柔軟に対応する
  • 里帰り出産をしている方も対象。里帰り先の市町村でも、産後ケアを必要とする方を把握した場合は対象として対応することが望ましいとされている
  • 流産・死産等を経験された方も対象に含まれる。ただし乳児と同じ場でのケアは精神的な負荷になりうるため、居宅訪問型を活用するなどの配慮を行う

「産後ケアを必要とする者」という表現は抽象的ですが、ガイドラインは事業内容の説明を受けたうえで本人が利用を希望する場合には、その対象とすると書いています。特別な理由や診断書がないと使えないもの、という理解は正確ではありません。

また、対象時期が「産後1年以内」まで広がっている理由も説明されています。もともとは産後4か月頃までを想定した事業でしたが、低体重で生まれた場合に退院が4か月を超えることがあること、産後5か月以降にも心の不調が起こりうることなどから、法律上は出産後1年以内とされました。断乳・卒乳の時期に乳腺炎を起こした場合でも、産後1年以内であれば対象時期には入っているということです。

ガイドラインが定める「除外となる者」

ここが、乳腺炎と産後ケアの関係でいちばん大事な部分です。ガイドラインは「除外となる者」として次の3つを挙げています。

① 母子のいずれかが感染性疾患(麻しん、風しん、インフルエンザ等)に罹患している者
母親に入院加療の必要がある者
心身の不調や疾患があり、医療的介入の必要がある母親(ただし、医師により産後ケア事業において対応が可能であると判断された場合にはこの限りではない。)

乳腺炎が関わってくるのは②と③です。抗菌薬による治療が必要な段階、膿がたまって処置が必要な段階は、「医療的介入の必要がある」に当たると読むのが自然です。産後ケアの窓口が「まず受診してください」と案内するのは、担当者の判断が厳しいからではなく、国のガイドラインがそう設計しているからです。

ただし③にはただし書きがあります。「医師により産後ケア事業において対応が可能であると判断された場合にはこの限りではない」。つまり、治療を受けている最中であっても、主治医が問題ないと判断すれば利用の道は残っているということです。抗菌薬を飲みながら授乳姿勢の指導を受ける、といった組み合わせが一律に禁じられているわけではありません。

このただし書きは、実際に交渉の材料になります。受診したときに「産後ケアを利用したいのですが、今の状態で使って差し支えないでしょうか」と主治医に聞いておくと、窓口とのやりとりが早く進みます。

実際の窓口では「乳腺炎は母乳外来へ」と案内されることがある

ガイドラインの規定は、現場の案内文にもそのまま現れます。たとえば当サイトが掲載している板橋区の施設一覧には、区の産後ケア(通所)の契約施設の一つが、公式サイトで「乳腺炎などでケアの必要がある方は母乳外来を別途ご利用ください」と案内している例があります。産後ケアの枠と、乳腺炎をみる母乳外来の枠を、施設側が分けているわけです。

自治体側の案内は、さらにはっきりしていることがあります。板橋区は産後ケア事業について、公式サイトで「授乳の相談、乳房ケア ※乳房マッサージは行えません」乳腺炎など治療を要する状態の場合は利用対象外」と明記しています。区の産後ケアは、乳腺炎そのものの受け皿としては設計されていない、という立場が文章になっているわけです。

一方で、産後ケアの内容として「乳房管理・乳房ケア」を掲げている区や施設もあります。荒川区のように、区の宿泊型産後ケアの実施施設について公式に「乳房管理、乳房ケア」と記載している例もあります。区によって書きぶりが違うので、一般論で決めつけず、自分の区の案内を読むのが確実です。

お住まいの区で産後ケアを実施している施設は、東京23区の施設一覧の各区ページにも「区の産後ケア事業」として掲載しています。窓口に電話する前に、どの施設が委託先になっているかを見ておくと話が早くなります。

産後ケアが力を発揮するのはどんなときか

「治療ではない」と書きましたが、それは価値が低いという意味ではありません。むしろ乳腺炎を繰り返す人にとって、産後ケアは数少ない現実的な打ち手です。

ガイドラインは、実施担当者について助産師・保健師・看護師のいずれかを常に1名以上置くこととし、さらに出産後4か月頃までの時期は、乳房ケアを含む専門的ケアを行うことから、原則として助産師を中心とした体制で対応すると定めています。乳汁の流れを立て直す専門職が、時間をとって関わってくれる仕組みだということです。

次のような場面は、産後ケアの得意分野に当たります。

  • 張りやすい・詰まりやすいが、熱も強い赤みもない――炎症になる前の段階で流れを整える
  • 含ませ方や抱き方が合っているか自信がない――第三者に実際の授乳を見てもらう。予防のページで挙げているコツは、見てもらうと一度で解決することが多い部分です
  • 搾乳の量や頻度の加減がわからない――出しすぎても足りなくても詰まりやすくなるため、加減の相談ができる
  • とにかく眠れていない――睡眠不足と疲労は乳腺炎の背景になります。宿泊型・日帰り型で数時間眠るだけでも体勢が変わります
  • 乳腺炎が治ったあと、同じことを繰り返したくない――再発予防の相談先として使う

とくに最後の使い方は見落とされがちです。乳腺炎が治った直後は「もう大丈夫」と思いやすいのですが、原因になった授乳のパターンが変わっていなければ、また同じ場所が詰まります。落ち着いた時期に産後ケアを1回入れておくのは、理にかなった使い方です。

産後ケアを待たずに受診したほうがよい状態

次のいずれかに当てはまるときは、産後ケアの申し込みではなく受診を優先してください。

状態 考えられること 行き先
38℃台の熱+体ががたがた震える寒気 感染が全身に及んでいる可能性 時間帯を問わず連絡
赤みが広がっている・皮膚が熱い 化膿性乳腺炎への進行 産婦人科・乳腺外科
しこりが波打つように柔らかい 乳腺膿瘍のうたがい 乳腺外科(処置ができる施設)
24時間ケアしても改善しない 抗菌薬が必要な段階 産婦人科・母乳外来
ぐったりして動けない・尿が出ない 全身状態の悪化 救急

判断に迷うときは夜間・休日の判断のページを、症状そのものの整理は乳腺炎とはのページをご覧ください。ここで受診を選んでも、産後ケアが使えなくなるわけではありません。治療が一段落してから改めて申し込めば済みます。

申し込みの順番と、間に合わないことがある理由

産後ケアは、思い立った日に使えるサービスではありません。多くの自治体で、おおむね次の順番になります。

  1. 区市町村に利用申請(窓口・郵送・オンラインなど。妊娠中から申請できる自治体もあります)
  2. 区市町村が対象かどうかを判断し、利用決定
  3. 利用者が施設に連絡して予約(施設の空き枠しだい)
  4. 利用

この流れには、どうしても日数がかかります。一方で乳腺炎は、半日から1日で状況が変わる病気です。時間の単位が合っていません。だからこそ、順番は次のようになります。

急な症状は医療機関へ。産後ケアは、落ち着いてからの立て直しと再発予防に使う。そして可能であれば、症状が出る前に申請だけ済ませておくことです。申請が通っていれば、必要になったときに施設への連絡だけで動けます。妊娠中や産後健診のタイミングで手続きを終えておくと、いざというときの選択肢が一つ増えます。

費用と回数の考え方

ガイドラインは、産後ケア事業について「利用者から利用料を徴収することができる」とし、あわせて利用しやすい環境を整える観点から、利用者の負担軽減措置の導入に努めることとしています。無料ではないが、実費よりかなり抑えられている――というのが一般的な形です。住民税非課税世帯などの減免を設けている自治体もあります。

回数・期間についても目安があります。短期入所(宿泊型)の利用期間は原則として7日以内で、分割して利用しても差し支えないとされています。市町村が必要と認めた場合は延長できます。7日を一度に使い切る必要はなく、1泊ずつ小分けにするといった使い方が想定されているということです。

なお短期入所型では、実施場所によらず助産師などの看護職を24時間体制で1名以上配置することになっています。夜間に相談できる人がいる、という点は宿泊型を選ぶ判断材料になります。

電話で確認しておくとよいこと

区の窓口や施設に問い合わせるときは、次の点を聞いておくと二度手間になりません。

  • 今の状態(乳腺炎の治療中/治ったばかり)で利用できるか。治療中の場合は、主治医が「対応可能」と判断していることを伝える
  • 申請から利用までにどのくらいかかるか。最短の日数を聞いておく
  • 乳房のケアが内容に含まれるか。施設によって得意分野が違う
  • 他院で出産した場合でも利用できるか。委託先が産科施設の場合、ここで分かれることがある
  • 自己負担額と、減免の対象になるか
  • 上の子を連れて行けるか。ガイドラインはきょうだい児への配慮に触れていますが、実際の可否は施設ごとです

受診のときに伝えることや持ち物は、受診前チェックリストにまとめています。

よくある質問

乳腺炎の治療中でも産後ケアは使えますか

一律に使えないわけではありません。ガイドラインは「医療的介入の必要がある母親」を除外としつつ、医師が産後ケアで対応可能と判断した場合はこの限りではないとしています。受診時に主治医へ確認し、その返答を窓口に伝えてください。ただし、入院が必要な状態は除外に当たります。

産後ケアで抗菌薬を出してもらえますか

産後ケア事業の枠組みでは行いません。薬が必要かどうかの判断と処方は医療機関の役割です。授乳中の薬の考え方もあわせてご覧ください。

里帰り中でも使えますか

ガイドラインは、里帰り先の市町村においても産後ケアを必要とする方を把握した場合は対象として対応することが望ましいとしています。実際の運用は自治体間の協議によるため、住民票のある自治体と滞在先の自治体の両方に確認してください。

産後半年を過ぎましたが、まだ対象ですか

母子保健法は「出産後一年を経過しない女子及び乳児」を対象としています。産後1年以内であれば、時期としては対象の範囲です。ただし自治体ごとに独自の期間を定めている場合があるため、区の案内で確認してください。

マッサージだけを目的に使ってもよいですか

自治体によっては、産後ケアの内容について「乳房マッサージは行えません」と明記しています(板橋区の例)。産後ケアは休息・授乳支援・育児相談を含む事業として設計されているためです。乳房のケアだけを希望する場合は、母乳外来や助産院の自費のケアを検討することになります。受診先の選び方も参考にしてください。

まとめ

  • 産後ケア事業は母子保健法第17条の2にもとづく市区町村の事業で、内容に乳房のケアが含まれる
  • ただしガイドラインは「入院加療が必要な人」「医療的介入が必要な人」を除外としており、治療段階の乳腺炎はここに当たりうる
  • 除外には「医師が対応可能と判断すればこの限りではない」というただし書きがある。受診時に確認しておく
  • 急な症状は受診が先。産後ケアは申請から利用まで日数がかかり、時間の単位が合わない
  • 産後ケアが効くのは炎症になる前と、治ったあとの立て直し。再発予防の相談先として使う
  • 条件・費用・回数は区市町村ごとに違う。症状が出る前に申請だけ済ませておくと動きやすい

参照ソース(一次情報)

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🩺 医師監修
本記事は救急科専門医が内容を確認しています。一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。制度の詳細・費用・対象条件はお住まいの区市町村の最新の案内をご確認ください。症状が強いとき・改善しないときは医療機関を受診してください。
(情報更新日:2026-08-28)
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