【医師監修】乳腺炎だと思ったら別の病気?|わきの下の腫れ(副乳)・つるっと丸いしこり(乳瘤)・くり返す膿——授乳中の乳房で見分けたい変化

【医師監修】乳腺炎だと思ったら別の病気?|わきの下の腫れ(副乳)・つるっと丸いしこり(乳瘤)・くり返す膿——授乳中の乳房で見分けたい変化(母乳ナビ・医師監修)

授乳中に乳房が腫れたり、しこりができたり、赤くなったりすると、まず乳腺炎を思い浮かべます。実際、そのほとんどは母乳のたまり(うっ滞)や乳腺炎です。ただ、日本助産師会『乳腺炎ケアガイドライン2020』には、乳腺炎と見分けておきたい乳房の変化が、わきの下の副乳から、母乳がたまった袋(乳瘤)、皮膚の感染、くり返す炎症、良性のしこり、まれな乳がんまで並んでいます。この記事では、それぞれが「どんな見え方・触れ方をするか」と「どうなったら受診を急ぐか」を、ガイドラインの記載に沿ってまとめました。

先に結論です。①わきの下の腫れは副乳のことがある、②つるっと丸いしこりが張りのケアで消えないときは乳瘤か膿瘍かを超音波で確かめる、③何度も、何か所も皮膚が破れて膿が出るときは肉芽腫性乳腺炎などを考えて専門医へ、④乳腺炎の治療を1週間続けても赤みが引かず、膿もたまっていないときは炎症性乳がんを考えて早急に専門医へ。どれも家で見分ける必要はありません。「いつから・どこが・どう変わったか」を伝えられるようにしておけば十分です。

授乳中の乳房の腫れ・しこりの多くは、うっ滞と乳腺炎です

ガイドラインは、相談の入り口でこう書いています。

乳房の腫れやしこりの多くは、乳汁のうっ滞や乳腺炎、乳瘤などであるが、まれに乳がんを併発していることがあるため、判断は慎重に行う。

つまり「ほとんどはよくあるもの、ただし決めつけない」という姿勢です。乳腺炎そのものの段階(うっ滞性か感染性か)の見分け方はうっ滞性乳腺炎と化膿性乳腺炎の違いで説明しています。この記事で扱うのは、その外側にある「乳腺炎に似ているけれど、別の対応が要るもの」です。

ガイドラインの鑑別の流れでは、熱があるかと乳房に症状があるかの組み合わせで行き先が分かれます。熱がなく乳房に症状がある場合は、うっ滞なら助産師のケアへ、腫瘍や慢性化した病変が疑われれば専門医へ。熱があって乳房に症状がない場合は、乳腺炎以外の病気(風邪、尿路感染症、帯状疱疹、産後早期の子宮の感染など)を考えます。

わきの下が腫れて痛い:副乳のことがあります

授乳が始まってしばらくして、わきの下にふくらみやしこりができて痛むという相談があります。乳房とは離れた場所なので驚きますが、ガイドラインの用語解説には次の記載があります。

一部の女性ではその残存組織がミルクラインに沿って存在し、特に腋窩や上腕内側で発達する。これを副乳という。副乳は、ホルモンの影響を受けるため、月経周期による変化、授乳期には乳汁分泌や腫脹がみられることもある。

胎児のときにできる「ミルクライン」に沿って乳腺の組織が残っていると、授乳期に張ったり、母乳がにじんだりします。助産師の触診でも、乳房だけでなく「腋窩の状態(リンパや副乳の腫脹の有無)」を確かめることになっています。

わきの下の腫れには、副乳のほかにリンパ節の腫れもあります。どちらかを自分で決める必要はありません。いつから腫れているか、授乳や張りに合わせて大きさが変わるか、同じ側の乳房に赤みや痛みがあるか、熱があるかを見ておき、相談のときに伝えてください。

つるっとした丸いしこり:乳瘤(乳汁嚢胞)

乳瘤(にゅうりゅう)は、母乳が袋状にたまったものです。ガイドラインの定義は次のとおりです。

主に授乳期乳腺にみられる良性限局型嚢胞性腫瘤で、チーズ様に濃縮変性した乳汁を貯留する。分泌乳管の部分的閉塞によって引き起こされる(乳管の閉塞による停滞嚢胞)

ガイドラインの比較表では、乳瘤の触れ方は「つるつるとした滑らかで丸いしこり」とされ、赤みや熱は目立たず、全身の症状は「無いことが多い」とされています。良性のものですが、放っておいてよいとは限りません。

乳瘤、繰り返す乳管閉塞、乳頭上の白斑による詰まりも、乳汁のうっ滞が引き起こされると乳腺炎の原因となる。

「マッサージしても取れないしこり」は超音波で確かめる

乳瘤で難しいのは、膿がたまった状態(膿瘍)と、触っただけでは区別がつかないことです。ガイドラインは次のように書いています。

発熱がなく、乳房にしこりがあり痛みがある場合、膿瘍を形成している可能性がある。乳瘤なのか、慢性化した膿瘍なのかの鑑別がつかない場合は、受診を勧める。

ガイドラインには、熱のないしこりを詰まりと考えてケアを続けたものの改善せず、2週間目に膿瘍が見つかって切開になった事例が載っています。その事例から引き出された教訓が次の一文です。

ケアで改善が見られないときは、超音波検査で膿瘍か乳瘤かを確認する

張りのケアや授乳を続けても同じ場所のしこりが数日たっても小さくならないときは、医療機関で超音波検査を受けてください。膿瘍だった場合の治療と授乳の続け方は乳腺炎が膿瘍になったらで説明しています。乳頭の白い点(白斑)による詰まりは乳房のしこり・乳頭の白い点の対処にまとめています。

皮膚が赤く熱をもつ:蜂窩織炎

蜂窩織炎(ほうかしきえん)は、皮膚とその下の組織に細菌が入って起こる感染です。乳腺の中の炎症である乳腺炎とは場所が違いますが、見た目と全身の症状はよく似ます。

皮膚および皮下組織の急性細菌感染で、乳房に発症した場合、乳腺炎と同じ全身症状が出ることがある。乳房に限局した発赤、熱感、疼痛がある。自潰すると大きな皮膚欠損となる。

乳頭や皮膚の傷が入り口になりやすく、問診で持病を聞く理由として、ガイドラインは「糖尿病の母親は、皮膚損傷から細菌や真菌が感染しやすく、蜂窩織炎、乳腺炎、カンジダ」と挙げています。乳頭の傷が治らないときは授乳のたびに乳頭が痛いときも参照してください。

授乳については、ガイドラインが引くアメリカ小児科学会感染症委員会の勧告に「乳房膿瘍や蜂窩織炎の場合、ドレーンが挿入されていても、児の口が排膿や感染している組織に直接触れなければ、患側乳房からの授乳も継続すべきである。」とあります。赤ちゃんの口が傷や膿に直接触れないことが条件です。どちらの胸から飲ませるかは、治療を受ける医療機関で確認してください。

何度も、何か所も膿が出る:肉芽腫性乳腺炎

授乳期の乳腺炎とは別に、長く続く炎症として肉芽腫性乳腺炎があります。

乳腺組織のまれな肉芽腫性炎症で、多核巨細胞浸潤を伴う。

硬い腫瘤を触知し、発赤・圧痛・熱感を伴うこともある。同時に複数個所に発症したり、再発を繰り返したりする慢性の炎症性疾患であり、自然治癒するものからステロイドや抗菌薬が必要なもの、難治性のものまでさまざまである

好発時期は出産・授乳後2〜3年とされ、授乳のさなかというより、授乳を終えるころやその後に出てくることがあります。乳腺炎と同じように赤く、硬く、痛むので、最初は乳腺炎として扱われることもあります。見分けるきっかけとして、ガイドラインは次の目安を挙げています。

複数回、複数部位で乳房の自潰をおこしている場合は、肉芽腫性乳腺炎や蜂窩織炎等を疑い、専門医への受診を勧める。

「切開して治ったと思ったら、別の場所がまた腫れた」「皮膚が破れて膿が出るのが2回目」というときは、母乳外来ではなく乳腺外科など乳腺の専門医に相談してください。

乳輪のすぐ下が繰り返し腫れる:乳輪下膿瘍・乳管拡張症

乳輪の下にできる膿のかたまりは、授乳とは関係なく起こることがあります。

妊娠・授乳とは関係なく乳輪下あるいは乳輪傍皮下に限局性、有痛性の発赤、硬結が生じて、やがて波動を呈するようになる。

ガイドラインの用語解説は続けて、膿が破れたり切開したりしていったん治ったように見えても、皮膚に通じる細いトンネル(瘻孔)ができて長く炎症を繰り返し、治りにくいことが多いと書いています。20〜30歳代に多く、陥没乳頭のある人に多いとされます。鑑別の流れには「非妊時・妊娠中、または産褥早期に乳輪下に膿瘍を形成し持続している場合、乳輪下膿瘍の可能性があり、専門医への受診を勧める。」とあります。妊娠前から同じ場所を繰り返しているなら、そのことを必ず伝えてください。

似た場所に起こるものに乳管拡張症(乳管周囲性乳腺炎)があります。ガイドラインは症状として「異常乳頭分泌、乳頭陥没、疼痛、瘻孔形成、腫瘤、日周期性の乳腺痛、皮膚の炎症症状、膿瘍など」を挙げ、「乳腺炎との鑑別が必要な疾患である。」としています。多いのは50歳代で、授乳期の典型ではありません。乳管周囲性乳腺炎については「乳頭の近くに硬結が生じ、炎症症状は軽く、血性または漿液性の乳頭分泌物をみる」と書かれています。

痛くない、境界のはっきりしたしこり:授乳期腺腫・線維腺腫など

赤みも熱もなく、痛みのないしこりが見つかることもあります。ガイドラインはまず次のように書いています。

多くの良性腫瘍は妊娠中と授乳中にもみられる。悪性の疑いがあるときは、早急に専門医師に紹介する。

  • 授乳期腺腫:「妊娠・授乳期に発生し、境界明瞭な限局型充実性腫瘤を形成する。」比較的まれな良性の腫瘍です
  • 線維腺腫:乳腺の良性のしこりで、10歳代後半から20歳代に多いもの。「葉状腫瘍との鑑別が難しいこともある。」とされています
  • 葉状腫瘍:線維腺腫に似ていますが、ゆっくり大きくなるものでは大きなしこりになります。「良性、境界領域、悪性に分類される」ため、診断は検査で決めます
  • 乳腺症:30〜40歳代に多い乳腺の良性の変化で、ガイドラインは「疾患ではない。」と書いています

どれも見た目や触った感じで家で区別することはできません。大切なのは次の一文です。

早期の授乳期乳がんは、痛みや炎症症状がないことが多い。

「痛くないから大丈夫」ではなく、痛くないしこりが授乳や張りと関係なく残っているときこそ、乳腺の専門医へ。授乳期は乳腺が発達していて触診だけでは見つけにくいため、超音波検査が使われます。授乳中の乳がんについてはその乳房の赤み、本当に乳腺炎?で詳しく説明しています。

乳腺炎の治療で1週間たっても引かない赤み:炎症性乳がん

まれですが、乳腺炎と最も間違われやすいのが炎症性乳がんです。しこりとして触れるより、乳房の皮膚全体が赤く腫れる形で現れます。

乳房皮膚の3分の1以上を占めるびまん性発赤、浮腫、硬結、橙皮状皮膚または豚皮状皮膚がみられる。乳房がほぼ全域で硬化し、広範な浮腫と発赤、熱感、疼痛等を伴う。乳腺炎の治療開始後1週間を経過しても症状の改善が見られず、膿瘍の形成もない場合は炎症性乳がんを疑う。

「橙皮状皮膚」は、毛穴がくぼんでオレンジの皮のように見える状態です。用語解説には、炎症性乳がんでは「全身的な炎症症状は伴わない。」ともあります。乳腺炎なのに熱やだるさがなく、赤みと腫れだけが広がって引かない——という経過は、それ自体が受診の理由になります。

ガイドラインの鑑別の流れも「炎症性乳がんの場合、乳腺炎との鑑別がつけにくく、乳腺炎の治療を行っても改善されない場合は、早急に専門医への受診を勧める。」としています。長引くときに見直すポイントは乳腺炎が長引く・こじれるのはなぜ?にもまとめています。

医療機関ではどうやって見分けるのか

膿瘍の切開を考える段階でも、医師は先に別の病気でないかを確かめます。ガイドラインには、切開手術前の診察として次の記載があります。

医師は、乳腺炎以外の乳腺疾患(乳がん、乳がん以外の悪性腫瘍、肉芽腫性乳腺炎、授乳性腺腫、乳輪下膿瘍、乳輪部、粉瘤、繊維腺腫、乳瘤)との鑑別を行う。

そのうえで、感染した部分から出る乳汁の培養検査と、超音波検査が行われます。乳腺炎・膿瘍・乳瘤の区別には超音波検査が使われ、膿瘍が確認されれば穿刺や切開で膿を出します。腫瘍が疑われるときは、乳腺の専門医で詳しい検査に進みます。母乳外来や助産院で「医療機関へ」と勧められたときは、これらの検査ができる場所につなぐためです。

家で見ておくこと、受診のときに伝えること

見分けるのは医療機関の仕事です。家では次の点を見て、メモしておくだけで十分です。

  • 場所:乳房のどこか(乳輪のすぐ下か、外側の上か)、わきの下か
  • 触った感じ:つるっと丸いか、ボコボコと硬いか、皮膚の表面が赤く熱いか、ぶよぶよと中に液がある感じ(波動)があるか
  • 変化:授乳や搾乳のあとで小さくなるか、何日たっても同じか、大きくなっているか
  • 全身:熱、寒気、頭痛、関節の痛みがあるか。ないのに赤みだけが広がるか
  • これまで:同じ場所が以前にも腫れたか、切開や皮膚が破れたことがあるか、妊娠前からあったか、陥没乳頭や糖尿病があるか
  • 治療の経過:抗菌薬などの治療を始めた日と、そこから何日たったか

どこに相談すればよいかは乳腺炎はどこを受診する?、受診先で何を聞かれ、どう診察されるかは乳腺炎で母乳外来・助産院に行くと何をする?で説明しています。

よくある質問

しこりがあっても授乳を続けていいですか?

乳腺炎やうっ滞では、授乳を続けることが回復の助けになります。ガイドラインの鑑別の流れにも「発熱時、検査や治療中の授乳は、ほとんどの場合継続は可能である。」とあります。検査や治療で授乳の仕方に注意が要る場合は、その医療機関から説明があります。

わきの下の腫れは、乳腺炎の悪化ですか?

副乳が張っていることもあれば、リンパ節が腫れていることもあります。乳房の赤みや熱と一緒に出ているか、授乳に合わせて大きさが変わるかを見て、相談のときに伝えてください。

痛くないしこりは様子を見てもいいですか?

授乳期のしこりの多くは良性ですが、ガイドラインは「早期の授乳期乳がんは、痛みや炎症症状がないことが多い。」としています。授乳や張りと関係なく残る痛くないしこりは、乳腺の専門医で確かめてください。

まとめ

  • 授乳中の乳房の腫れやしこりの多くはうっ滞・乳腺炎・乳瘤。ただし決めつけない
  • わきの下の腫れは副乳のことがある。授乳期には張ったり母乳がにじんだりする
  • 乳瘤はつるっと丸いしこり。ケアで小さくならなければ超音波で膿瘍と区別する
  • 皮膚が赤く熱い蜂窩織炎も、乳腺炎と同じ全身症状が出ることがある
  • 何度も、何か所も皮膚が破れて膿が出るときは肉芽腫性乳腺炎などを考えて専門医へ
  • 乳輪の下を妊娠前から繰り返すなら乳輪下膿瘍の可能性。専門医へ
  • 痛くないしこりが残るとき、治療を1週間続けても赤みが引かず膿もないときは、早めに乳腺の専門医へ

参照ソース(一次情報)

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🩺 医師監修
本記事は医師が内容を確認しています。一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状が強いとき・改善しないときは医療機関を受診してください。
(情報更新日:2026-10-01)
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