【医師監修】搾乳のやり方|指を置くのは乳頭から2〜3cm・1秒に1〜2回、ひねる/しごくはしない——ガイドラインが書く「痛みを伴わない搾乳」

【医師監修】搾乳のやり方|指を置くのは乳頭から2〜3cm・1秒に1〜2回、ひねる/しごくはしない——ガイドラインが書く「痛みを伴わない搾乳」(母乳ナビ・医師監修)

乳腺炎で乳頭が痛い、赤ちゃんが患側を嫌がる、切開創があって直接飲ませられない——そんなとき、乳汁を出す手段として残るのが搾乳です。ところが「どのくらいの強さで、どこに指を置いて、どのくらいの速さで」は、産院を出たあとに教わる機会がほとんどありません。日本助産師会『乳腺炎ケアガイドライン2020』は、この手順を数字つきで書いています。このページでは、一次資料の言葉のまま示したうえで、痛みを出さない搾乳の組み立て方をまとめます。

先に結論です。指を置くのは乳頭の中心からおよそ2〜3cm、リズムは1秒間に1、2回。そして、ひねる・つまむ・ねじる・しごく・押し込む・引っ張るはしないと書かれています。ガイドラインが推奨しているのは、強く出す搾乳ではなく「痛みを伴わない搾乳」です。

ガイドラインが搾乳をどう位置づけているか

まず、搾乳がどういう扱いなのかを確認しておきます。

日本助産師会・日本助産学会は、乳腺炎症状改善のために、助産師が搾乳(乳汁ドレナージ)を実施することを提案する。ただし、乳腺炎は炎症性の疾患であるため、局所の安静を保つことを優先し、局所には過度な圧力を加えず、痛みを伴わない搾乳(乳汁ドレナージ)を推奨する

ここに大事な条件が二つ入っています。「局所の安静を保つことを優先」と「痛みを伴わない」です。炎症を起こしている組織に強い圧をかけることは、目的ではありません。「詰まりを押し出す」というイメージで力を入れてしまうと、ガイドラインが言っていることと逆向きになります。

搾乳が必要になるのは、どんなときか

ガイドラインは、搾乳が必要/有用になる場面を具体的に挙げています。

乳腺炎に罹患し、乳管口から膿が排出している場合、乳頭に亀裂や損傷、びらん、潰瘍があり乳頭痛が強い場合、乳輪に切開創がある場合など、直接授乳ができないときは搾乳が必要になる。また、児が乳腺炎に罹患している乳房から飲もうとしなかったり、乳房に吸着してもすぐに離れてしまい十分飲みとらない場合や、乳腺炎が進行し、乳房の緊満、うっ滞、乳房全体の緊張や膨隆により、一時的に陥没乳頭となった場合、 あるいは乳輪乳頭が腫脹して硬くなり児が吸着不能となった場合も、搾乳は有用である。

並べ直すと、次のようになります。

  • 乳管口から膿が出ている
  • 乳頭に亀裂・損傷・びらん・潰瘍があり、痛みが強い
  • 乳輪に切開創がある
  • 赤ちゃんが患側を飲もうとしない/くわえてもすぐ離れて十分に飲みとらない
  • 張りが強くて一時的に陥没乳頭になった
  • 乳輪乳頭が腫れて硬くなり、くわえられない

どれも「直接授乳ができない・うまくいかない」状況です。逆に言えば、直接飲めているなら、まず優先されるのは直接授乳です。搾乳はその代わりに置かれるもので、上乗せの作業ではありません。

入院で離れることになったとき

乳腺炎の治療のために母親が入院するときは、 常に児を同伴し、 授乳ができる環境を提供できることが望ましい。一時的に母子分離になったときは、 両乳房から定期的に搾乳することにより、 乳汁分泌が維持できる。

離れているあいだも、両側から定期的に搾ることで分泌は維持できると書かれています。入院=授乳の終わり、ではありません。

手で搾るか、搾乳器を使うか

搾乳方法には、 手による搾乳と搾乳器を使用する方法がある。 乳腺炎の疼痛が強いときは手による搾乳がよいが、 母親のニーズによっては搾乳器が必要となる場合がある。搾乳器を使用する場合においても手による搾乳を併用する。 また、 搾乳器を使用する場合は、吸引圧を調整できる高性能のものを使用し、 もっとも低い吸引圧から搾乳を開始する。痛みを感じる場合は使用を中止する。

ここは3点に整理できます。

  • 痛みが強いときは手で搾るほうがよい——器具は吸引圧が一定にかかるので、痛い場所に合わせて加減しにくいからです
  • 搾乳器を使うときも、手での搾乳を併用する
  • 吸引圧を調整できるものを選び、いちばん低い圧から始める。痛みを感じたら中止する

「強い圧のほうがよく出る」ではありません。痛みが出た時点で、その設定は目的から外れています。

指を置く位置は、乳頭の中心から2〜3cm

ここがこのページの中心です。ガイドラインは手順をこう書いています。

搾母乳を受ける清潔な容器を準備する。搾乳者は手をよく洗う。乳房を消毒する必要はない。搾乳時、指を置く位置は、乳頭の中心からおよそ2 ~3cm離れたところに、乳頭を中心として母指と示指が対称になるよう、 それぞれの指の関節を曲げて当てる(児が乳房をくわえたときの上唇と下唇が当たる位置に相当する)。残りの3本の指で乳房を軽く持ち上げるように支えたり、肋骨に手を固定するように添える。母親の姿勢は、前かがみになり過ぎないよう、 また肩、首、肘、手関節が緊張していないか確認する。

順に確かめます。

  • 手はよく洗う。ただし乳房を消毒する必要はない——消毒液で拭くと、かえって乳頭の皮膚を傷めます
  • 親指と人さし指を、乳頭の中心から2〜3cm離した位置に、左右対称に置く。目安は「赤ちゃんがくわえたときに上唇と下唇が当たる位置」です
  • 指の関節を曲げて当てる。指先だけでつまむ形にはしません
  • 残りの3本の指は、乳房を軽く持ち上げて支えるか、肋骨に手を固定するように添える
  • 前かがみになりすぎない。肩・首・肘・手首が緊張していないか確認する

最後の項目は見落とされがちですが、大事です。前かがみで肩に力が入った姿勢は長く続きません。搾乳は「短時間の力仕事」ではなく、何度も繰り返す作業です。

速さは、赤ちゃんの口の動きに合わせる

搾乳は児が母乳を飲むときのリズムや口の動きに合わせる。 1秒間に1、 2回 (写真1234)をリズミカルに繰り返す。乳頭をひねる、つまむ、ねじる、 しごく、押し込む、引っ張るなど痛みを感じたり、乳房に負担をかけることはしないよう説明する。搾乳した母乳は、 コップやスプーンで飲ませることもできる。

1秒間に1〜2回。これは赤ちゃんが吸うリズムです。ゆっくり力を込めて押し続けるのでも、細かく速く動かすのでもありません。

そして、してはいけない動きが6つ名指しされています。ひねる/つまむ/ねじる/しごく/押し込む/引っ張る。いずれも「痛みを感じたり、乳房に負担をかける」動きとして挙げられています。うまく出ないときほどこの6つに近づいてしまうので、出ないときは力を足すのではなく、次の項目を試してください。

搾っても出ないときに、順番でやってみること

乳腺炎罹患側の乳房を搾乳しても射乳反射がみられず、 搾母乳が得られない場合がある。そのような場合は、健側の乳房を搾乳し、射乳し始めたらすぐに患側の乳房の搾乳を行う。あるいは左右同時に搾乳を行う。

痛いほうで射乳が起きないなら、痛くないほうで先に起こしてから切り替える。あるいは左右同時に搾る。これは直接授乳のときの工夫と同じ考え方です(乳腺炎のときの授乳の続け方でも同じ順番が示されています)。

乳房全体のうっ滞や緊満、腫脹が強く、搾乳しても分泌がみられない場合は、母親のリラクゼーションを促すよう、背中や肩を温めたり、やさしくマッサージしたり、乳頭乳輪部を温湿布する。

温めるのは背中・肩・乳頭乳輪部です。炎症のある部分そのものを強く温めることではありません。冷やす/温めるの使い分けは葛根湯と冷やすことのエビデンスにまとめています。

搾った母乳を、赤ちゃんに飲ませてよいか

健側乳房からの搾母乳は、通常の保存方法後、児に飲ませることが可能である。患側から膿が混入した搾母乳は、児の状態によっては禁忌となる場合があるので、小児科医師に相談することを勧める。

分けて読んでください。

  • 健側から搾ったもの——通常の保存をしたうえで飲ませられます
  • 患側から搾ったもので、膿が混じっているもの——赤ちゃんの状態によっては禁忌になる場合があるので、小児科の医師に相談することが勧められています

「膿が混じっている」は、乳管口から膿が出ている状態を指します。見た目でわからないときは、自己判断で飲ませる/捨てるを決めず、母乳外来や小児科に現物の様子を伝えて相談してください。

なお、搾った母乳はコップやスプーンでも飲ませられるとガイドラインに書かれています。哺乳びんが使えない場面でも方法はあります。

他人の母乳をもらう・買うことについて

搾乳の話とあわせて、国が注意喚起している点にも触れておきます。「授乳・離乳の支援ガイド」の参考資料は、インターネット等で販売される母乳についてこう書いています。

既往歴や搾乳方法、保管方法等の衛生管理の状況が不明な第三者の母乳を乳幼児が摂取することは、病原体や医薬品等の化学物質等が母乳中に存在していた場合、これらに暴露するリスクや衛生面でのリスクがある。

足りないときの解決策として、出どころのわからない母乳を使うことは勧められていません。不足するときは育児用ミルクを併用する方法があります。

助産師に搾ってもらうとき、伝えていいこと

ガイドラインは、支援する側への注意も書いています。

母親に搾乳手技を伝える場合、 助産師は乳房模型を使用して説明するとよい。また、 母親が望んでいないときは、 母親の乳房を直接搾乳して手本を示すことは避ける。母親自身が搾乳しやすい指の位置、 力の調節方法を見出していけるよう促す。

望んでいなければ、直接搾って手本を示すことは避けると明記されています。「模型で説明してほしい」「まず自分でやってみたい」と伝えてよい、ということです。

助産師が搾乳する場合は、母親の了解を得てから乳房に触れ、搾乳中は母親の表情や言動に注意し、 搾乳によって痛みを与えないように留意して行う。

ここでも基準は同じです。痛みを与えないこと。痛いときは、我慢せずその場で言ってください。乳房マッサージのエビデンスのページでも、同じ考え方を扱っています。

痛い側だけ直接授乳を休んで搾乳で保つ、という選び方については乳腺炎で授乳をやめたくなったときで触れています。「患側乳房からの授乳が中断されたとしても、健側乳房からの授乳は続けてよい」とされています。

搾乳のときの清潔について、ガイドラインは「乳房を消毒する必要はない。」としています。手洗いや容器、シャワーの考え方は乳腺炎の菌はどこから来る?(赤ちゃんへの影響・お風呂・消毒)へ。

これは相談してください

  • 乳管口から膿が出ている(搾母乳の扱いを含めて相談が必要です)
  • 搾乳してもまったく出ず、張りと痛みが強くなっていく
  • しこりの部分に波動(ぶよぶよした揺れ)を触れる——乳腺膿瘍の目印です
  • 発熱や悪寒があり、12〜24時間たっても症状が変わらない(薬の使い方を参照)
  • 乳頭の傷が治らず、搾乳のたびに強く痛む(乳頭の痛みを参照)

まとめ

  • ガイドラインが推奨しているのは「局所には過度な圧力を加えず、痛みを伴わない搾乳」
  • 指を置くのは乳頭の中心からおよそ2〜3cm、親指と人さし指を左右対称に、関節を曲げて当てる
  • 残り3本の指で乳房を支えるか、肋骨に手を固定するように添える。前かがみになりすぎない
  • リズムは1秒間に1、2回。ひねる・つまむ・ねじる・しごく・押し込む・引っ張るはしない
  • 手をよく洗う。ただし乳房を消毒する必要はない
  • 痛みが強いときは手による搾乳。搾乳器はいちばん低い吸引圧から始め、痛ければ中止
  • 患側で射乳が起きないときは健側で起こしてから切り替えるか、左右同時に
  • 出ないときは背中・肩を温め、乳頭乳輪部を温湿布。力を足すのではありません
  • 健側の搾母乳は飲ませられる。膿が混じった搾母乳は小児科医師に相談
  • 母子が離れる期間も、両乳房から定期的に搾ることで分泌は維持できる

参照ソース(一次情報)

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🩺 医師監修
本記事は医師が内容を確認しています。一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状が強いとき・改善しないときは医療機関を受診してください。
(情報更新日:2026-09-23)
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