【医師監修】乳腺炎になりやすい人はいる?|ガイドラインCQ8のリスク因子一覧と、「原因ではなく結果かもしれない」項目の読み方

【医師監修】乳腺炎になりやすい人はいる?|ガイドラインCQ8のリスク因子一覧と、「原因ではなく結果かもしれない」項目の読み方(母乳ナビ・医師監修)

乳腺炎になったあと、「どうして自分だけ」「何がいけなかったのか」と原因を探してしまう方は多いと思います。日本助産師会『乳腺炎ケアガイドライン2020』は、乳腺炎のリスク因子を8つ目のクリニカルクエスチョン(CQ8)として正面から取り上げ、世界中の研究から有意差の出たものを一覧表にまとめています。このページでは、その表に何が並んでいるのかを一次資料の言葉のまま整理し、さらにガイドライン自身がつけている「注」まで含めて読み解きます。注まで読むと、見え方がかなり変わります。

先に結論です。繰り返し出てくるのは「乳頭の傷」「乳腺炎の既往」「うまく飲み取れていないこと」の3つです。そして表に載っている項目のいくつかには、ガイドライン自身が「乳腺炎の原因ではなく、結果である可能性がある」という注をつけています。一覧を「やってはいけないことリスト」として読まないでください。

ガイドラインは、リスク因子を表にまとめている

『乳腺炎ケアガイドライン2020』のCQ8は「乳腺炎のリスク因子は何か?」という問いです。解説の冒頭には、こう書かれています。

今回の網羅的文献検索の結果から、乳腺炎のリスク因子に関する研究結果を下記の表にまとめた。

表には、ドイツ・オーストラリア・アメリカ・フィンランド・スペイン・中国・ニュージーランド・イランなど各国の研究が並びます。研究デザインは前向きコホート研究、ケース・コントロール研究、横断調査などさまざまです。

ただし、その前提としてガイドラインはこうも書いています。

ABM2014では、乳汁がうっ滞すること以外の因子と乳腺炎との関連は、一般的な結論が出ていないとしている

いちばん確かなのは「乳汁がうっ滞すること」であって、それ以外は決着していない。これが出発点です。以下に挙げる項目は、どれも「これがあったら必ずなる」という意味ではありません。

繰り返し出てくる3つ

① 乳頭の傷・乳頭の痛み

複数の国の研究で、独立して挙がっているのが乳頭の状態です。ガイドラインの表から、有意だった結果を抜き出します。

  • オーストラリアのケース・コントロール研究(Amir 2006):乳頭亀裂の adjusted OR 9.34
  • オーストラリアの前向きコホート研究(Cullinane 2015):乳頭損傷の IRR 2.17
  • イランの前向きコホート研究(Zarshenas 2017):乳頭亀裂の adjusted OR 21.16
  • 中国の前向きコホート研究(Tang 2014):乳頭亀裂・乳頭痛の adjusted IRR 2.24

痛みが長引くこと自体も挙がっています。オーストラリアのデータ統合研究(Amir 2007)では、4週間以上続く乳頭痛の adjusted OR が 1.58 でした。

ABM2014の誘因リストの先頭にも、次の一文が置かれています。

乳頭に損傷があること、特に黄色ブドウ球菌が定着していること

傷そのものよりも、そこから菌が入る経路ができることが問題になる、という考え方です。乳頭の痛みや傷が続いているときの対処は、乳頭が痛いときのページにまとめています。

② 乳腺炎になったことがある

これは複数の研究で一貫しています。フィンランドの横断調査(Jonsson 1994)では、こうです。

乳腺炎の既往あり:乳腺炎発症率約3倍(既往あり46.2%、既往なし15.7%)

スペインのケース・コントロール研究(Mediano 2014)では乳腺炎の既往の adjusted OR が 3.91、オーストラリアの前向きコホート研究(Kinlay 2001)では adjusted HR 1.74 でした。

一度なった方にとっては気の重い数字かもしれません。ただこれは「体質だから仕方がない」という話ではなく、前回うまくいかなかった条件がまだ残っている可能性を示していると読むほうが現実的です。授乳の姿勢、吸着、授乳間隔——前回と同じ条件を点検する価値がある、ということになります。

なお、スペインの研究では家族の乳腺炎の既往も adjusted OR 2.28 で挙がっており、ガイドラインは注で「遺伝性素因が関連している可能性が考えられる」としています。

③ 赤ちゃんがうまく飲み取れていないこと

ABM2014の誘因リストには、こう書かれています。

不適切な吸着や、吸啜が弱かったり適切に吸啜運動ができなかったりするために、乳房から効果的に乳汁を飲み取ることができないこと

表のデータでも、オーストラリアのケース・コントロール研究(Fetherston 1998)で初めての授乳での吸着困難が OR 7.37、Cullinane 2015 で吸着障害が IRR 1.96、Amir 2006 で児の授乳困難(母親の報告)が adjusted OR 6.32 と並びます。

授乳回数が減ることも挙がっています。イランの研究(Zarshenas 2017)では授乳回数の減少の adjusted OR が 3.91 で、ガイドラインの注はその理由をこう説明しています。

特に産後初期で乳汁分泌が多いときに突然授乳が減ると、乳房緊満や乳頭閉塞のリスクが高くなる可能性がある。

同じイランの研究では乳房緊満の adjusted OR が 156.35と、表のなかで飛び抜けた数字になっています。産後すぐの張りについては産後すぐの胸の張りのページで詳しく扱っています。

乳房が圧迫されること

ABM2014の誘因リストには、具体的な例まで書かれています。

乳房が圧迫されること(例:きついブラジャー、シートベルト)

表のほうでも、きついブラジャーの着用は Amir 2006 で adjusted OR 3.47、Fetherston 1998 で初めての授乳の OR 4.05 と、別々の研究で挙がっています。

産後は乳房のサイズが変わります。妊娠前のブラジャーや、ワイヤーの入った締めつけの強いものを使い続けていないか、一度だけ確かめてみてください。シートベルトは外すわけにいきませんが、長時間の運転が続く日は、途中で体勢を変える時間をとることはできます。

ストレスと疲労は、精神論ではなく表に載っている

「疲れがたまると乳腺炎になる」はよく言われますが、これは経験則だけの話ではありません。

  • ドイツの前向きコホート研究(Abou-Dakn 2009):乳腺炎を発症した女性のほうが、産後1年でのストレスレベルが有意に高かった
  • ドイツの前向きコホート研究(Wöckel 2010):ストレスの増加が乳腺炎を発症した女性で有意に増加(P = 0.029)
  • 中国の前向きコホート研究(Tang 2014):ストレスを感じている adjusted IRR 3.15
  • オーストラリアのケース・コントロール研究(Fetherston 1998):通常よりストレスを感じている OR 2.03

睡眠についても、アメリカの小規模なケース・コントロール研究(Foxman 1994)に具体的な数字があります。

昼寝を十分にとれない(「昼寝をとれる」割合ケース41.2%,コントロール70.6%)

ガイドラインの注は「乳腺炎発症群は、昼寝が取れなかったため、疲労につながった可能性が考えられる」としています。横になる時間を確保することは、気休めではなく予防の一部として扱われているということです。

とはいえ、産後に「休んでください」と言われても実行できないのが実情だと思います。家族や産後ケア事業など、外の手を借りる話は産後ケアは使える?にまとめています。

ここが大事——「リスク因子」に見えて、原因ではないかもしれないもの

CQ8の表には、一見すると「やめたほうがいいこと」に見える項目がいくつも載っています。ところが、ガイドラインはそれぞれに【注】をつけて、解釈に釘を刺しています。ここを読まずに表だけを見ると、必要なケアをやめてしまいかねません。

搾乳そのもの(Zarshenas 2017:adjusted OR 11.30/Cullinane 2015:1日に数回の搾乳 IRR 1.64)について、ガイドラインの注はこうです。

乳腺炎の原因ではなく、結果である可能性がある。

乳房の傷や乳汁分泌過多(乳腺炎のリスク因子)がある女性が実施しているために、リスク因子に挙がっている可能性がある。

ただし搾乳「器」の使用(Mediano 2014:adjusted OR 2.78)だけは、注の書き方が違います。こちらは直接の経路が示唆されています。

搾乳器の頻繁な使用により、乳頭痛や乳頭の傷につながっている可能性が考えられ、それにより乳腺炎のリスクが上昇している可能性がある。

搾乳そのものをやめる理由にはなりませんが、吸引圧が強すぎないか、装着部(フランジ)のサイズが合っているか、長時間かけすぎていないかは見直す価値があります。

ニップルシールドの使用(Cullinane 2015:IRR 2.93)についても同じ形の注があります。

乳頭に傷のある女性がニップルシールドを使用しているため、リスク因子になった可能性がある。

乳頭にクリームを塗ること(Kinlay 2001:adjusted HR 1.83/Mediano 2014:adjusted OR 1.91)も同様です。

乳頭痛や乳頭亀裂(乳腺炎のリスク因子)がある女性が乳頭のクリームを使用しているためリスク因子に上がった可能性がある。

つまり「搾乳したから乳腺炎になった」「クリームを塗ったから悪化した」という読み方は、ガイドライン自身が否定しているということです。困っている人がその対処をしていた、という順番が逆に見えているだけかもしれません。

さらに、表には専門職・技術職・管理職(Kaufmann 1991:RR 12.29)や大学卒(Kinlay 2001:adjusted HR 1.93)まで載っています。これも注を読むと理解できます。

高学歴の女性は、乳腺炎の発症率が同じでも、医療への受診率が高く、そのことにより、乳腺炎をより多く報告した可能性が考えられる。

学歴そのものが乳房に影響するはずもなく、受診しやすさや就労状況が数字に映り込んでいるという読み方です。

もうひとつ意外なのが連続した授乳で交互の乳房から授乳を始める(Kinlay 2001:adjusted HR 2.28)という項目です。ここにも注があります。

授乳のたびに(前回授乳を終えたほうの)同じ乳房から授乳を始める女性のほうが乳腺炎の発症が低い傾向にあり、それらは乳房の緊満やうっ滞を予防する目的で母親たちが取り入れていた可能性がある。

すでに張りやすい人が予防のために片方から始めていた、という順番かもしれない、ということです。表の項目を、そのまま因果の矢印として読まない。これがCQ8のいちばん大事な使い方だと思います。

食べ物は、この表に入っていません

ガイドラインは、ABM2014の誘因リストのなかで、わざわざ括弧つきでこう書いています。

母親のストレスや疲労(特定の食物がヒトにおける乳腺炎のリスクであるというエビデンスはない)

脂肪の制限(CQ2)と乳製品の制限(CQ3)は別のクリニカルクエスチョンとして正式に検討されており、そちらの結論もあわせて乳腺炎は食べ物のせい?のページで扱っています。ケーキを食べたことを思い出して自分を責める必要はありません。

授乳の間隔そのものについては、授乳の間隔があくと乳腺炎になる?にまとめています。リスクになるのは時間の長さではなく、痛みを感じるほど乳汁がたまることです。

今日から確かめられること

ここまでの内容を、家でできる形に落とすとこうなります。

  • 乳頭に傷や痛みがないか毎日見る。傷は最も再現性の高いリスク因子で、放置するほど長引きます
  • 痛いのに我慢して授乳を続けない。痛みは多くの場合、吸着がずれているサインです
  • ブラジャーの締めつけを見直す。妊娠前のサイズやワイヤー入りのままになっていないか
  • 授乳の間隔があきすぎないようにする。特に産後初期に急に回数が減ると、張りにつながります
  • 横になる時間を、意識して確保する。ガイドラインの表に載っている項目です
  • 一度なったことがある方は、前回の条件を点検する。既往は約3倍という数字が出ています

予防全般については予防・再発を防ぐのページもあわせてご覧ください。

この表には抗菌薬の使用(adjusted OR 5.38)も並んでいます。なぜリスク因子の側に出てくるのか、それでも必要なのはどんなときかは乳腺炎の薬(痛み止めと抗菌薬)に書いています。

それでも起きたときは

リスク因子をすべて避けられる人はいません。表に並んでいる項目の多くは、意思の力でどうにかなるものでもないからです。

大切なのは、起きたあとに早く動くことです。うっ滞しているだけなのか、感染を伴っているのかで対応が変わります(うっ滞性と化膿性のちがい)。高い熱が出ている、悪寒がある、しこりが急に大きくなった、赤みが広がっているといったときは、夜間でも相談してよい状況です(夜間・休日の判断)。

原因を探して自分を責める時間より、次の授乳をどうするかに使ってください。

まとめ

  • ガイドラインは乳汁のうっ滞以外の因子については「一般的な結論が出ていない」という前提を置いている
  • 繰り返し出てくるのは乳頭の傷・乳腺炎の既往・うまく飲み取れていないことの3つ
  • きついブラジャーによる圧迫とストレス・疲労も複数の研究で挙がっている
  • 搾乳・ニップルシールド・乳頭クリームは「原因ではなく結果である可能性」がガイドライン自身の注に書かれている
  • 食べ物はリスク因子として確認されていない
  • 表の項目を、そのまま「やってはいけないことリスト」として読まないでください

参照ソース(一次情報)

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🩺 医師監修
本記事は医師が内容を確認しています。一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状が強いとき・改善しないときは医療機関を受診してください。
(情報更新日:2026-09-14)
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