【医師監修】乳腺炎でも痛い側から飲ませていい?|ガイドラインが書く「授乳中止はかえって状態を悪化させる」と、頻繁に・最初に患側からの飲ませ方

【医師監修】乳腺炎でも痛い側から飲ませていい?|ガイドラインが書く「授乳中止はかえって状態を悪化させる」と、頻繁に・最初に患側からの飲ませ方(母乳ナビ・医師監修)

乳腺炎になったとき、「この胸から飲ませていいの?」「膿が出ているのに大丈夫?」と不安になる方は多いと思います。少し前まで、痛む側の乳房からの授乳を止めるよう指導されることもありました。日本助産師会『乳腺炎ケアガイドライン2020』は、その指導が現在は変わったことを、理由とともにはっきり書いています。このページでは、一次資料の言葉のまま示したうえで、実際の飲ませ方の工夫までまとめます。

先に結論です。「授乳中止は乳腺炎の回復には役立たず、 かえって状態を悪化させる危険が生じる」と書かれています。黄色ブドウ球菌が確認されていても「授乳継続は一般的に安全である」。そして飲ませ方には順番があります——これまで以上に頻繁に、最初に患側から。

まず、いちばん重要な治療は「薬」ではありません

ガイドラインは、治療手段の優先順位をこう書いています。

しばしば乳汁のうっ滞が乳腺炎を引き起こす要因となるため、頻繁で効果的に乳汁を乳房から取り去ることが、最も重要な治療手段である

最も重要な治療手段は、乳汁を出すこと。薬はその次です。ここを押さえると、このあとの話が一本の線になります。授乳を止めるということは、いちばん重要な治療をやめるということだからです。

「痛む側は止めましょう」は、今は逆になっています

ガイドラインは、指導が変わったことを経緯ごと書いています。

以前は、乳腺炎を起こしている乳房からの授乳を禁止する指導が広く行われていた。しかし、 現在では「乳腺炎および膿瘍のある母親が授乳を継続することは、 その女性の回復と児の健康にとって重要である。 授乳中止は乳腺炎の回復には役立たず、 かえって状態を悪化させる危険が生じる。さらに、 心の準備ができていない状態での授乳中止は、その母親に深刻な情緒的ストレスを与えることもある」とされている。

三つのことが書かれています。①回復に役立たない ②かえって悪化させる危険がある ③心の準備がないまま止めることは深刻な情緒的ストレスになる。

三つ目が明記されているのは、この資料の特徴です。「母乳をやめればラクになる」と言われて納得できないまま止めた、というつらさは、気持ちの問題として片づけられていません。

赤ちゃんへの安全性は、数字で確認されています

いちばん不安なのはここだと思います。ガイドラインは根拠を並べています。

6つの研究報告で膿瘍を含めた乳腺炎発症下の授乳継続210例中、 児に有害な影響のあった例は皆無であったという知見から、 「たとえ黄色ブドウ球菌が確認されていたとしても授乳継続は一般的に安全である」 として授乳の継続を勧めている

膿瘍を含めて210例、児に有害な影響はゼロ。そのうえで「黄色ブドウ球菌が確認されていたとしても」という条件つきで安全とされています。

アメリカ小児科学会感染症委員会の勧告も引用されています。

乳房膿瘍や蜂窩織炎の場合、ドレーンが挿入されていても、児の口が排膿や感染している組織に直接触れなければ、患側乳房からの授乳も継続すべきである。一般的に感染性乳腺炎は、抗菌薬治療をしながら授乳を継続することによって改善され、 授乳は健康な正期産児への重大なリスクにはならない。

そして、判断が分かれたときの逃げ道も示されています。

たとえ、患側乳房からの授乳が中断されたとしても、健側乳房からの授乳は続けてよい

「全部やめる」しかない、という場面はほとんどありません。切開やドレーンが入っている場合の判断は、処置をした医師に確認してください(乳腺膿瘍の処置)。

「菌が赤ちゃんにうつらないか」という心配については乳腺炎の菌はどこから来る?(赤ちゃんへの影響・お風呂・消毒)でも扱っています。膿や傷があるときに気をつける点もまとめました。

飲ませ方の順番——「頻繁に、最初に患側から」

ガイドラインは、乳腺炎のときの授乳の工夫を箇条書きで示しています。そのまま引用します。

これまで以上に頻繁に、最初に患側から授乳する。

詰まっている側を後回しにすると、その側だけたまり続けます。いちばん吸う力が強い一口目を、痛む側に使う、という発想です。

ただし、痛みが強いと母乳が出てきません。そのための代案も書かれています。

痛みにより射乳反射が起こりにくい時は、健側の乳房から授乳を始めて、射乳反射が起こったら、すぐに患側の乳房に切り替えるようにする。

「健側でスイッチを入れて、出始めたら患側へ渡す」。この順番を知らないと、痛い側から始めて出ず、余計に時間だけがかかります。痛みが強いときは我慢せず、痛み止めについても相談してください(乳腺炎の薬(痛み止めと抗菌薬))。

抱き方——「詰まっているところに、赤ちゃんの顎」

姿勢にも具体的な指示があります。

患部からの乳汁ドレナージをよくするために、閉塞部位に児の顎がくるような授乳姿勢をとる。

赤ちゃんの顎は、いちばん強く動く場所です。しこりのある位置に顎が当たる向きを探してください。脇の下側に硬いところがあるなら、脇に赤ちゃんの体を通す抱き方(フットボール抱き)、下側なら仰向けに寝て赤ちゃんを上に乗せる形、というようにしこりの場所で抱き方が決まります。

力の入れ方についても注意があります。

乳汁の流れを促すために、授乳中に閉塞部位から乳頭に向かって強い圧力をかけないようにする。緩やかに母親が自分でマッサージする。

「押し出す」ではなく「流れを促す」。強く押すのは逆効果です(乳房マッサージと保険)。

もうひとつ、24時間ぶんの注意もあります。

片側(患側)のみ圧迫する姿勢(睡眠時、添い寝時、授乳時、抱いている時)を避ける。

授乳中だけの話ではありません。寝ているあいだの向きや、抱っこの癖まで含めて書かれています(乳腺炎のリスク因子)。

うまく飲めているかの確認ポイント

ガイドラインは、吸着(ラッチ)と授乳がうまくいっているサインを一覧で挙げています。当てはまるか見てみてください。

適切な吸着(くわえ方)

  • 児の口が大きく開いている
  • 上側の乳輪より、児の顎の下側にある乳輪の方が見えない(乳房の下方が児の口腔内に入っている)
  • 児の顎が乳房につき、下唇が外側を向き、鼻が押しつぶされていない
  • 痛みがない

うまく飲み取っている赤ちゃんのサイン

  • 嚥下音が聞こえ、嚥下を見ることができる
  • リズミカルな吸啜が持続する
  • 手や腕がリラックスしている
  • 一定の間隔でオムツがぐっしょり濡れて重い(6〜8回/日)

うまく授乳できているお母さんのサイン

  • 授乳後に乳房が柔らかくなる
  • 授乳後、乳頭が圧迫されていない(乳頭が変形したり、白くなったりしていない等)
  • 母親がリラックスして眠気を感じる

「痛みがない」がリストに入っている点に注目してください。痛みは根性で乗り切る対象ではなく、くわえ方を見直すサインとして扱われています(乳頭が痛いとき)。

患側を嫌がって飲んでくれないとき

乳腺炎のときは味が変わることがあり、赤ちゃんが患側を嫌がることがあります。ガイドラインはまず「患側乳房を嫌がる場合は、なだめながら授乳を試みる」とし、そのうえで具体的ななだめ方を列挙しています。

  • 抱っこしてゆらゆら動かし、あやして落ち着かせる
  • 眠りそうになっているときや、とても眠いときに授乳する(覚醒しているとき嫌がっても、眠いときには飲む児は多い)
  • 別の授乳姿勢をとってみる
  • 母親が座ったり立って授乳するより、揺らしたり歩いたりする
  • 肌と肌のふれあいを多くする(母親は上半身服を脱ぎ、児はおむつだけに)
  • 二人で一緒にお風呂に入って落ち着いてから授乳する
  • テレビやラジオなどの刺激を取り除き、暗い静かな部屋で授乳する
  • 歌うような静かでやさしい声で話しかけて落ち着かせる
  • 乳頭と乳輪に母乳を塗って授乳する

最後の項目が、この一覧の性格を表しています。

児が嫌がり始めたら、無理やり授乳しようとせすに、なだめて落ち着かせてから再び授乳を試みる。

「無理やり飲ませない」が明記されています。飲んでくれないときに、直接授乳だけに固執する必要はありません。順番はこう示されています。

第一に直接授乳を促し、それが不十分もしくはできない場合には自身による搾乳、さらに不十分な場合には助産師による搾乳で乳房内の乳汁うっ滞を軽減させることを提案する。

直接授乳 → 自分で搾乳 → 助産師による搾乳。どの段でも「出す」という目的は同じです(授乳の間隔は?)。

搾るときは「痛くない範囲で」

搾乳についても、力の加減が明記されています。

乳腺炎は炎症性の疾患であるため、局所の安静を保つことを優先し、局所には過度な圧力を加えず、痛みを伴わない搾乳(乳汁ドレナージ)を推奨する

直接授乳が足りないときは「乳房に痛みを感じないように圧力を調整して、 手による搾乳を行う」、手で難しければ「圧力調整ができる搾乳器による搾乳を試みる」とされています。痛いのは、やりすぎのサインです。

続けることがつらくて「やめたい」と感じたときの考え方は乳腺炎で授乳をやめたくなったときにまとめました。健側だけ続ける・搾乳で保つといった途中の選択肢もあります。

これは相談してください

  • 飲ませても搾っても、同じ場所のしこりが硬いまま変わらない
  • しこりの一部が波打つように柔らかい(乳腺膿瘍)
  • 38度以上の熱や強い悪寒が続く(産後の発熱)
  • 痛みが強くて授乳の姿勢が取れない
  • 乳頭に傷があり、くわえるたびに強く痛む
  • 「抗菌薬を飲むなら授乳をやめて」と言われた(処方した医師に確認してください/乳腺炎の薬)

まとめ

  • 最も重要な治療手段は頻繁で効果的に乳汁を取り去ること。授乳を止めることは治療をやめること
  • 「授乳中止は乳腺炎の回復には役立たず、かえって状態を悪化させる危険が生じる」
  • 膿瘍を含む210例で児に有害な影響はゼロ。黄色ブドウ球菌が確認されていても継続は一般的に安全
  • 患側が難しくても健側からの授乳は続けてよい
  • 飲ませ方はこれまで以上に頻繁に、最初に患側から。痛くて出なければ健側で射乳を起こして切り替える
  • 抱き方は閉塞部位に児の顎がくる向き。強い圧力はかけない
  • 片側だけを圧迫する姿勢は、睡眠時・添い寝時・抱っこ時も含めて避ける
  • 嫌がるときは無理やり飲ませず、なだめてから。足りなければ搾乳へ

参照ソース(一次情報)

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🩺 医師監修
本記事は医師が内容を確認しています。一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状が強いとき・改善しないときは医療機関を受診してください。
(情報更新日:2026-09-18)
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