【医師監修】授乳の間隔があくと乳腺炎になる?|「何時間おき」に根拠がない理由と、ガイドラインが示す間隔があいたときの順番

【医師監修】授乳の間隔があくと乳腺炎になる?|「何時間おき」に根拠がない理由と、ガイドラインが示す間隔があいたときの順番(母乳ナビ・医師監修)

「授乳の間隔をあけると詰まる」「3時間おきに飲ませないといけない」——産後、いろいろな人からいろいろなことを言われて、時計を見ながら不安になっている方は多いと思います。日本助産師会『乳腺炎ケアガイドライン2020』は、この問題をクリニカルクエスチョンの4番目(CQ4)として取り上げています。そして出した答えは、多くの方の予想とは違うものでした。このページでは、ガイドラインが実際に何と書いているかを一次資料の言葉のまま示し、そのうえで「では何を目安にすればよいのか」を整理します。

先に結論です。「何時間おき」という数字に根拠はありません。ガイドラインは、児の欲求に応じた授乳が乳腺炎を予防するかを調べ、該当する研究が見つからなかったと明記しています。一方で、乳房に違和感や痛みを感じるほど乳汁がたまった状態は、乳腺炎のリスクになりうるとも書いています。見るのは時計ではなく、乳房の状態です。

ガイドラインが立てた問いと、その答え

『乳腺炎ケアガイドライン2020』のCQ4は、次のような問いです。

CQ4:授乳中の女性が、児の欲求に応じた授乳をすると、乳腺炎の発症を予防できるか?

比較対象として置かれているのは「児の欲求に応じた授乳をしない(規則授乳)」、つまり時間を決めて飲ませるやり方です。評価する結果には、乳腺炎の発症のほか、乳房痛・乳頭痛および亀裂・しこり・発赤といった授乳トラブルが挙げられています。

この問いに対する【推奨】欄は、一行だけです。

今回は該当する研究が見つからず、エビデンスが存在しなかった。

エビデンスの確実性は「評価できず」。解説でも「今回の網羅的文献検索の結果、該当する介入研究は見つからなかった。」と繰り返されています。

つまり「欲しがるときにあげる授乳が、規則授乳より乳腺炎を減らす」という研究は、世界の文献を探しても見つからなかったということです。逆に「規則授乳のほうがよい」という研究も出てきていません。どちらが乳腺炎を防ぐかは、決着していない領域です。

それでも「授乳を制限しない」が勧められている

エビデンスがない、で話が終わっているわけではありません。ガイドラインは続けて、国際的な資料の記載を紹介しています。

ABM2014では、乳房の充満や乳管閉塞に対する効果的な対処として、授乳を制限しないことを推奨している。

ABMは母乳育児医学アカデミーの略で、2014年の乳腺炎に関する指針を指します。ここで言われているのは「乳腺炎を予防できる」ではなく、乳房が張ってきたとき・詰まった感じがあるときの対処として、授乳を制限しないということです。目的が少し違います。

そのうえでガイドラインは、児の欲求に応じた授乳を「母乳育児がうまくいく要件の一つ」と位置づけ、次のように提案しています。

日本助産師会・日本助産学会は、児の欲求に応じた授乳を支援することを提案する。

根拠として挙げられているのは、乳腺炎予防の研究ではなく、母乳育児の継続に関するコクランレビューです。「乳腺炎を防ぐため」ではなく「母乳育児がうまくいくため」の提案である、という区別は知っておいてよいと思います。

1日5回から15回まで、という幅

回数について、ガイドラインはこう書いています。

児の欲求回数は、1日に5回~15回といわれ

と記載され、そのあとに「個人差がある」と続きます。

5回と15回では、3倍の開きがあります。この幅の広さそのものが、「正しい回数」が決まっていないことを示しています。

1日5回で足りている赤ちゃんもいれば、15回欲しがる赤ちゃんもいる。同じ赤ちゃんでも、日によって、時間帯によって変わります。夕方にまとめて欲しがる子、夜中に集中する子、それぞれです。

「隣の子は3時間おきなのに、うちは1時間で起きる」という比較は、この幅の中では意味を持ちません。

危ないのは「間隔があくこと」そのものではありません

では、授乳間隔はいくらあいても構わないのか。ここがこのページでいちばん大事なところです。ガイドラインの記載を、区切らずにそのまま引用します。

児の欲求の状況が通常と異なる、もしくは、児の欲求に授乳中の女性が応えられないような状況で授乳間隔が延長し、乳房に違和感や痛みを感じるほど乳汁がうっ滞すると、乳腺炎のリスクとなりうる。

条件が段階的に並んでいます。①いつもと違う状況が起きて、②授乳間隔が延び、③乳房に違和感や痛みを感じるほど乳汁がたまる。ここまで来てはじめて、乳腺炎のリスクになりうる、と書かれています。

逆に言えば、間隔があいても、乳房が張って痛くなっていないなら、その時点で慌てる材料はないということです。判断の基準は経過時間ではなく、乳房の状態のほうにあります。

『乳腺炎ケアガイドライン2020』はリスク因子を扱ったCQ8の中で、国際的な資料の見解として「ABM2014では、乳汁がうっ滞すること以外の因子と乳腺炎との関連は、一般的な結論が出ていないとしている」とも書いています。うっ滞が中心にある、という点は一貫しています(乳腺炎のリスク因子)。

乳腺炎を起こしている側をどう飲ませるかは乳腺炎のときの授乳の続け方に分けて書いています。「これまで以上に頻繁に、最初に患側から授乳する。」がガイドラインの指示です。

間隔があいてしまったときの、順番

外出、上の子の用事、体調不良、赤ちゃんがよく眠ってしまった——間隔があくことは実際に起きます。そのとき何をするかについて、ガイドラインは順番を明記しています。

その場合には、第一に直接授乳を促し、それが不十分もしくはできない場合には自身による搾乳、さらに不十分な場合には助産師による搾乳で乳房内の乳汁のうっ滞を軽減させることを提案する。

整理すると、こうなります。

  • まず、直接飲んでもらう(いちばん効率よく乳汁が出ていく方法です)
  • それが足りない・できないときは、自分で搾る
  • それでも足りないときに、助産師の搾乳

最初に手を伸ばす先は、マッサージでも、葛根湯でも、冷やすことでもなく、飲んでもらうことです。同じガイドラインはこの続きで「助産師は、搾乳手技を授乳中の女性が修得できるよう支援することを提案する。」とも書いています。自分で搾れるようになっておくことが、次に間隔があいたときの備えになります(乳房マッサージと搾乳)。

夜中の授乳、外出、仕事復帰のとき

間隔があきやすい場面ごとに、確認することを挙げます。

赤ちゃんがまとめて寝るようになったとき

成長に伴って夜間の授乳が減るのは自然なことです。問題になるのは、乳房の側がその変化にまだ追いついていないときです。目が覚めたときに乳房が張って痛い、硬いところがある、という状態なら、少し搾って楽になるところまで出します。全部搾り切る必要はありません。

外出・用事で数時間あけるとき

出かける前に飲んでもらう、戻ってからすぐ飲んでもらう、というだけで多くは足ります。長時間になるときは、搾れる用意を持っていくと安心です。

仕事に戻るとき

勤務のあいだ授乳できない時間ができます。休憩時間に搾る場所と方法を、戻る前に決めておいてください。張ったまま我慢する時間が習慣になると、うっ滞が起きやすい条件がそろいます。

「搾ると余計に増える」という心配について

搾ると乳汁が増えてしまうから我慢したほうがいい、と聞いたことがある方もいると思います。ガイドラインはこの点について直接の推奨を置いていませんが、CQ4の提案はうっ滞を軽減させることを目的に搾乳を位置づけています。

実際の目安としては、張って痛いところが楽になる程度まで搾る、というのが現実的です。毎回きっちり空にすることを続ければ、その分だけ作られる量に影響しますが、痛みが出るほど我慢することのほうが、うっ滞という明確なリスクに近づきます。迷うときは、次の授乳までの時間ではなく、いまの乳房の感触で決めてください。

これは相談してください

間隔の問題ではなく、すでに次の段階に入っていることがあります。

  • 38度以上の熱が出た、悪寒(ぞくぞくする寒気)がある
  • 乳房の一部が赤く腫れて、押すと強く痛む
  • しこりが急に大きくなった、赤みが広がってきた
  • 飲ませても搾っても、その部分だけ硬いままで変わらない
  • 乳頭に傷があり、痛みが続いている(乳頭が痛いとき)

うっ滞している段階なのか、感染を伴う段階なのかで対応が変わります(うっ滞性と化膿性のちがい)。夜間や休日にあたる場合の考え方は、夜間・休日の判断にまとめています。

産後まもない時期の強い張りについては、乳房が張って痛いときも併せて読んでください。

まとめ

  • ガイドラインは「児の欲求に応じた授乳が乳腺炎を予防するか」を検討し、該当する研究が見つからず、エビデンスが存在しなかったとしている
  • それでも授乳を制限しないことは、乳房の張りや詰まりへの対処として国際的な資料で勧められている
  • 児が欲しがる回数は1日5〜15回で、個人差が大きい
  • リスクになるのは時間の長さそのものではなく、乳房に違和感や痛みを感じるほど乳汁がたまること
  • 間隔があいたときの順番は①直接授乳 ②自分で搾乳 ③助産師による搾乳
  • 時計ではなく、乳房の状態を基準にしてください

参照ソース(一次情報)

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🩺 医師監修
本記事は医師が内容を確認しています。一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状が強いとき・改善しないときは医療機関を受診してください。
(情報更新日:2026-09-15)
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