【医師監修】産後の発熱は乳腺炎とは限らない|熱が出たら確かめる4か所と受診の目安

産後の発熱は乳腺炎とは限らない|熱が出たら確かめる4か所と受診の目安(母乳ナビ・医師監修)

産後に熱が出ると、多くのお母さんはまず乳腺炎を思い浮かべます。実際その通りであることが多いのですが、産後の発熱には乳房以外から始まるものがいくつもあり、しかもそれらは乳腺炎とよく似た始まり方をします。このページは、救急外来で産後の発熱を診てきた医師の視点から、熱が出たときに自分で確かめられる場所と、その組み合わせで受診の急ぎ具合がどう変わるかを整理したものです。

産後の発熱の多くは、落ち着いて対処すれば回復します。ただし「乳房に赤く痛む場所がないのに熱だけ高い」「寒気で体ががたがた震える」「息が苦しい」のいずれかがあるときは、乳腺炎以外を考える場面です。時間帯にかかわらず医療機関に連絡してください。

「乳腺炎だと思っていた」が起こりやすい理由

産後の体には、熱を出しうる変化が同時にいくつも起きています。子宮は元の大きさに戻る途中で、悪露が出続けています。会陰や帝王切開の傷が治りかけています。睡眠が細切れになり、体力が落ちやすい時期です。そこに乳房の張りが重なるので、熱が出れば乳房を疑うのが自然で、それ自体は間違いではありません。

問題は、乳腺炎という説明がついた瞬間に、ほかを確かめる手が止まりやすいことです。授乳と搾乳を頑張って一晩過ごし、翌朝になっても熱が下がらない――救急外来で出会う「実は違った」というケースの多くは、この経過をたどっています。

ですから、熱が出たときにやることは「乳腺炎かどうかを当てる」ことではありません。乳房を含む4か所を順番に確かめて、当てはまらない場所を消していくことです。これは特別な知識がなくてもできます。

熱が出たら確かめる4か所

順番に見ていきます。所要時間は数分です。当てはまるものにいくつ印がつくかを覚えておいてください。

確かめる場所 見るポイント 当てはまるとき
① 乳房 片側に赤く硬く痛む場所があるか。ぶよぶよした部分はあるか 乳腺炎・乳腺膿瘍
② 下腹部と悪露 下腹部を押すと痛むか。悪露のにおいや量が急に変わったか 子宮からの感染
③ 背中と排尿 背中や腰の片側が痛むか。排尿時にしみるか、回数が増えたか 腎盂腎炎などの尿路の感染
④ のど のどが痛むか。家族に発熱やのどの痛みの人がいるか のどから始まる感染

そして、この4つとは別に「熱よりも息苦しさや胸の痛みが前に出ていないか」を確認します。ここだけは感染症とは別の話で、後半で扱います。

① 乳房 ── 乳腺炎と乳腺膿瘍

もっとも多い原因です。特徴は症状が片側に偏り、場所がはっきりしていることです。乳房の一部が赤く、硬く、押すと痛い。その部分が熱をもっている。授乳や搾乳のあと少し楽になる。こうした所見がそろえば、乳腺炎として対応を始めてよい状況です。

うっ滞性なのか、細菌感染が加わった化膿性なのかで対応が分かれます。詳しくはうっ滞性乳腺炎と化膿性乳腺炎の違い乳腺炎とは?症状・原因・受診の目安にまとめています。

ただし、乳房に所見があっても次の場合は先に進んでいる可能性があります。

  • ぶよぶよと波打つように柔らかい部分がある:膿がたまった状態(乳腺膿瘍)かもしれません
  • 寒気で体ががたがた震える(悪寒戦慄)が繰り返す:菌が血流に入っているときに起こることがあります
  • 解熱鎮痛薬を使っても熱がまったく下がらず、痛みが増していく

② 下腹部と悪露 ── 子宮からの感染

お産のあと、子宮の内側は傷ついた面が広がっている状態です。ここに感染が起きると熱が出ます。乳房と違って体の表面に赤みが出ないため、見た目では気づけません

目安になるのは次の3つです。

  • 下腹部を手で押すと痛む(後陣痛とは違って、押したときにはっきり痛む)
  • 悪露のにおいが急に強くなった、色が変わった、量が急に増えた
  • 熱が出ているのに乳房には赤く痛む場所がない

この場合の窓口は母乳外来ではなく、お産をした施設の産婦人科です。夜間であっても、分娩した施設には連絡先があります。

③ 背中と排尿 ── 腎盂腎炎

膀胱の感染が腎臓まで及んだ状態です。産後は骨盤内のうっ血や排尿の我慢が重なりやすく、起こりやすい時期にあたります。

特徴は「高い熱と、背中側の片側の痛み」という組み合わせです。腰のやや上、背中の左右どちらかを軽くたたくと響くように痛むことがあります。排尿時にしみる、回数が増えた、残った感じがするといった症状が数日前からあったなら、その可能性が上がります。

ただし産後は、そもそも排尿の感覚が戻りきっていないことが多く、膀胱炎の症状がはっきりしないまま腎盂腎炎になることがあります。「熱があって、乳房も下腹部も当てはまらない。でも背中が痛い」というときは、その点を伝えて受診してください。抗菌薬による治療が必要で、内科・泌尿器科・救急外来のいずれでも対応できます。

④ のど ── 産後は特に注意が必要な感染

ここは、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。

「のどが痛くて熱が出た」というのは、ふだんなら風邪として様子を見る場面です。実際、厚生労働省の抗微生物薬適正使用の手引き 第四版でも、のどの痛みを主症状とする急性咽頭炎について、抗菌薬の適応となるA群溶血性レンサ球菌(溶連菌)による症例は「成人においては全体の10%程度と報告されている」とされています。つまり大人の場合、多くは抗菌薬の要らないウイルス性です。

ところが、産後のお母さんはこの前提が変わります。

日本産婦人科医会が医療者向けにまとめている「母体安全への提言2024 Vol.15」には、過去の提言が年ごとに収載されています。そのなかに次の記載があります。

2023年の提言:「妊産婦は、劇症型A群溶連菌感染症のハイリスクと認識し、早期スクリーニング実施と早期介入を行う。」「妊産婦に上気道感染予防を啓発する。」

2018年の提言:「Centor criteria に妊産婦を+1点として追加する」

Centor criteria(セントアの基準)は、のどの痛みが溶連菌によるものかを見積もるために医師が使う点数です。そこに「妊産婦であること」だけで1点を足すという提言が出ているということは、産後のお母さんののどの痛みは、同じ症状でも一段階うたがいを強めて診るべき対象として扱われているということです。

さらに同じ資料には、重症化した後に回復した症例をふり返った記載があります。

「3例は自宅で感冒様症状、発熱、胎動減少などの症状があり速やかに受診していた。2例は院内発症で、流産処置後、産褥2日目の発熱などの症状で認知できた。」

「GASの迅速検査が行われていない例、行われていても陰性例などは少なくなかった。」

ここで大事なのは後半です。のどの検査が陰性でも否定はできないということが、専門家の側でも共有されています。実際、2019年の提言には「迅速抗原検査が陰性でも、臨床症状(qSOFA等)から敗血症への進行が否定できない場合には、速やかに抗菌薬の経静脈投与を行う」とあります。

お母さん側で覚えておいていただきたいのは、次の2つだけです。

  • 産後に「のどの痛み+高い熱」が出たら、風邪として様子を見る時間を短くする。半日単位で考えてください
  • 受診したら「産後◯週です」と最初に伝える。この一言で、医師の見方が変わります

上の子や家族に発熱・のどの痛みの人がいる場合は、それも必ず伝えてください。提言でも家族歴の聴取が挙げられています。

なお、産後2〜3日に両側の乳房全体が張っている場合は、38.5℃未満の微熱までなら乳房緊満で説明がつくことがあります。見分け方は産後2〜3日で胸が張って痛いときをご覧ください。

熱より「息苦しさ」が前に出るとき

ここまでは感染症の話でしたが、産後にはもうひとつ、まったく別の系統の急ぐ症状があります。脚の静脈にできた血のかたまりが肺の血管に流れて詰まる、肺血栓塞栓症です。妊娠中から産後にかけては血液が固まりやすい状態にあり、加えて産後は動く機会が減るため、起こりやすい時期にあたります。

前述の「母体安全への提言2024」では、この病気から回復した15例について「妊娠中の自宅発症が2例、帝王切開中が2例、産褥入院中が11例であった」と記載されています。産後の入院期間中が多いという内訳ですが、退院後に起こらないという意味ではありません。同資料は、対応のうえで「初期対応としていかにPEを疑うかが極めて重要である」と述べています。疑わなければ検査に進まない、という性質の病気だからです。

お母さん側から見たサインは、熱ではありません。

  • 急に息が苦しくなった、少し動いただけで息が上がる
  • 深く息を吸うと胸が痛い
  • 片方のふくらはぎだけが腫れている・痛い・熱をもっている
  • 動悸が続く、立ち上がるとふらつく

これらがあるときは、乳房や悪露を確かめる前に医療機関へ連絡してください。息苦しさが強ければ119番通報の対象です。

なお同じ資料の2019年の提言には「大動脈解離の診断は胸痛、背部痛で思いつくことが大切であり、妊娠中だけでなく、産褥期での発症にも留意する」という記載もあります。熱を伴わない急な胸や背中の強い痛みも、産後は様子を見ずに相談してよい症状です。

乳房に所見があっても油断できない場面

「乳房に赤く痛む場所があったから乳腺炎で確定」としたくなりますが、ひとつだけ補足があります。

「母体安全への提言2024」では、産科的な感染症をどう分類するかの定義のなかに、次の記載があります。

「産褥子宮内感染、先行する乳腺炎などの起因菌で本症が診断された場合(A群レンサ球菌(GAS)による敗血症も含む)」

専門的な文言ですが、読み取れることは明快です。乳腺炎が、全身に広がる感染症の出発点になりうることは、専門家の側では前提として扱われているということです。

ですから、乳腺炎とわかっていても、次の変化があれば「乳腺炎だから」で片づけないでください。これは乳房の問題が全身の問題に変わったサインです。

  • 寒気で体ががたがた震える(悪寒戦慄)が繰り返す
  • ぐったりして立てない、意識がぼんやりする
  • 息が荒い、動悸が続く、尿が半日以上ほとんど出ていない
  • 抗菌薬を飲み始めて48時間たっても、熱も痛みもまったく変わらない

どこに連絡すればよいか

確かめた4か所の結果によって、連絡先が変わります。

当てはまったもの 平日の日中 夜間・休日
乳房だけ 母乳外来・産婦人科・助産院 翌朝まで待てることが多い(判断の目安
下腹部・悪露 お産をした施設の産婦人科 お産をした施設に電話
背中・排尿 内科・泌尿器科 救急外来(当日中に)
のど+高い熱 内科(産後であることを伝える) 救急外来(様子を見ない)
息苦しさ・胸痛・片脚の腫れ 時間帯を問わずすぐ連絡。強ければ119番
どれも当てはまらない ♯7119(救急相談センター)に電話

どの窓口に電話するときも、「産後◯週です」を最初に言うことが、いちばん効きます。産後であるという情報だけで、聞かれる質問も、想定される病気も変わります。伝える内容を整理しておきたい方は受診前のチェックリストを、受診先の選び方はどこを受診する?をご覧ください。

よくある質問

乳房が痛くて熱もあります。それでも他を確かめる必要がありますか

数分で終わるので、確かめておくことをおすすめします。乳腺炎はよくある病気なので、乳房に所見があれば乳腺炎であることが多いのは事実です。ただ、産後は複数のことが同時に起こりうる時期です。下腹部・背中・のどに何もなければ、それは「乳腺炎として対応してよい」という確認になり、安心して休むことができます。

熱が何度以上なら受診したほうがよいですか

数字だけで決めないでください。37℃台でも、ぐったりして水分がとれない、悪寒戦慄がある、息が苦しいといった状態なら受診が必要です。逆に39℃でも、解熱鎮痛薬で下がって動ける、乳房に所見がはっきりしている、水分がとれているのであれば、翌朝の受診で間に合うことが多くなります。体温よりも、動けるかどうか・水分がとれるかどうかを目安にしてください。

熱があるとき、授乳は続けてよいですか

乳腺炎による発熱であれば、乳汁を溜めないことが改善につながるため、一般に授乳を中止する必要はありません。ほかの感染症の場合も、多くは授乳を続けられます。ただし原因と使う薬によって判断が変わるので、受診時に「授乳中です」と必ず伝えて、その場で確認してください。薬については授乳中の薬の考え方にまとめています。

のどが痛いだけで救急外来に行くのは大げさではないですか

産後はそうではありません。前述のとおり、専門家の側でも妊産婦は溶連菌感染のうたがいを一段階強めて診る対象とされています。「のどの痛み+高い熱」で受診して、結果がただの風邪だったなら、それが望ましい結果です。受診の際は産後であることと、家族に同じ症状の人がいるかを伝えてください。

解熱鎮痛薬を飲んで様子を見てもよいですか

解熱鎮痛薬を使うこと自体は問題ありません。ただし「薬で熱が下がったから大丈夫」と判断しないでください。薬が効いている間だけ下がるのは自然なことで、原因が何であるかとは関係がありません。薬が切れたときにどうなるか、そのときに動けるかどうかを見てください。

まとめ

  • 産後の発熱は乳腺炎であることが多いが、乳房以外から始まるものもある
  • 熱が出たら乳房・下腹部と悪露・背中と排尿・のどの4か所を確かめる
  • のどの痛み+高い熱は、産後は様子を見る時間を短くする。検査が陰性でも否定はできない
  • 感染症とは別に、息苦しさ・胸の痛み・片脚の腫れは時間帯を問わずすぐ連絡する
  • 乳腺炎とわかっていても、悪寒戦慄・ぐったり・尿が出ないは全身に広がったサイン
  • どの窓口でも「産後◯週です」を最初に伝える

参照ソース(一次情報)

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🩺 医師監修
本記事は救急科専門医が内容を確認しています。一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状が強いとき・改善しないときは医療機関を受診してください。
(情報更新日:2026-08-27)
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