乳腺炎の治療をしているのに熱が下がらない、乳房の一部がぶよぶよと柔らかい——そんなときに考えられるのが乳腺膿瘍(にゅうせんのうよう)です。乳腺の中に膿がたまった状態で、抗菌薬だけでは治まらず、膿を出す処置が必要になります。「切開」と聞くと不安になりますが、どんな処置なのかを知っておくと、受診の決心がつきやすくなります。処置の実際と、授乳を続けられるのかをまとめます。
乳腺膿瘍とは何か
化膿性乳腺炎が進行すると、炎症を起こした部分に膿がたまり、袋状の空間をつくることがあります。これが乳腺膿瘍です。
膿がたまった空間には、抗菌薬が十分に届きません。そのため、薬を飲み続けても熱が下がらない・しこりが小さくならないという経過をたどります。治療の原則は膿を外に出すことで、これは薬ではなく処置によって行います。
疑うサイン
- 乳房の一部がぶよぶよと波打つように柔らかい(硬いしこりとは触り心地が違う)
- 乳腺炎の治療をしているのに熱が下がらない、または再び上がる
- 赤み・腫れ・痛みがだんだん強くなっている
- 皮膚がてかてかと張って光る、赤黒く変色している
- 乳頭や皮膚から膿が出てきた
これらがあるときは、乳腺外科での超音波検査を受けてください。超音波では、膿がたまっているかどうか、どのくらいの大きさか、どの深さにあるかが分かります。授乳中でも問題なく受けられる検査です。
どんな処置をするのか
膿を出す方法は、大きく二つあります。どちらを選ぶかは、膿のたまり方・大きさ・場所によって医師が判断します。
穿刺吸引(せんしきゅういん)
超音波で膿のたまっている場所を確認しながら、細い針を刺して膿を吸い出す方法です。局所麻酔で行われ、傷はほとんど残りません。一度で出しきれない場合は、数日おきに繰り返すことがあります。
体への負担が小さいため、比較的小さな膿瘍ではこちらが選ばれることが増えています。
切開排膿(せっかいはいのう)
膿が多い場合や、袋がいくつかに分かれている場合には、皮膚を小さく切って膿を出す方法がとられます。こちらも局所麻酔で行われます。
切開したあとは、膿が再びたまらないようにドレーンと呼ばれる細い管やガーゼを一時的に入れておくことがあります。その後は数日から数週間、通院して処置を受けながら傷が閉じるのを待ちます。
痛みと傷あとについて
多くの方が心配されるのがこの二点です。
- 痛み:処置は局所麻酔で行われます。麻酔の注射自体には痛みがありますが、処置中の強い痛みは抑えられます。なお、膿がたまって張っている状態そのものが強く痛むため、膿を出したあとは楽になることがほとんどです。
- 傷あと:切開の場合は傷が残りますが、乳輪の縁など目立ちにくい位置が選ばれることが多く、時間とともに目立たなくなっていきます。気になる場合は、処置の前に医師に相談してください。
「怖いから様子を見る」という選択は、多くの場合膿瘍を大きくしてしまいます。早い段階なら穿刺吸引で済んだものが、遅れると切開が必要になる、という関係にあります。
授乳は続けられるのか
多くの場合、授乳を続けることができます。
- 処置を受けた側についても、傷の位置や状態によっては授乳を続けられます
- 患側の授乳が難しい場合でも、搾乳で乳汁を出すことで乳腺の流れを保ちます。これは膿瘍の治療にとっても大切です
- 健側(反対側)の授乳は通常どおり続けられます
- 使用される抗菌薬は、授乳中に使えるものが選ばれます
ただし、傷の位置や膿の性状によって個別の判断が必要です。「授乳を続けたい」という希望は、必ず最初に伝えてください。その前提で処置と治療の進め方を組み立ててもらえます。
受診先はどこか
膿瘍が疑われる段階では、乳腺外科・ブレストクリニックが適しています。超音波検査から処置まで一つの科で完結するためです。
母乳外来や助産院では画像検査や外科的処置は行いません。これらの施設は授乳のトラブルには非常に頼りになりますが、膿瘍が疑われる段階では役割が変わります。かかりつけの母乳外来がある場合は、そこから紹介してもらう形でも構いません。
そこまで至らないために
乳腺膿瘍は、乳腺炎の初期段階できちんと対応できれば多くは避けられます。
- うっ滞の段階で乳汁を溜めない
- 発熱や強い痛みがあるとき、24時間改善しなければ受診する
- 抗菌薬が処方されたら指示された期間を飲みきる
- 治療しているのに悪化するときは、同じ場所で待たずに受診先を切り替える
最後の点はとくに大切です。「もう少し様子を見ましょう」と言われて数日待つあいだに膿瘍が育つ、というのは実際に起こることです。悪化していく実感があるときは、遠慮せずにもう一度相談してください。
よくある質問
入院が必要になりますか
多くの場合、穿刺吸引も切開排膿も外来で行われます。処置のあとは通院して経過を見ます。ただし、全身状態が悪い場合や膿瘍が大きい場合には入院が検討されることがあります。乳児を連れての通院・入院については、受診の際に生活の事情を具体的に伝えてください。付き添いの可否や通院間隔を含めて相談できます。
治るまでどのくらいかかりますか
膿の量や処置の方法によって幅があります。穿刺吸引で済んだ場合は数日から1〜2週間、切開してドレーンを入れた場合は、傷が閉じるまで数週間かかることもあります。いずれも処置後は熱と痛みが早く楽になることがほとんどです。
次の出産のときにも起こりますか
一度乳腺膿瘍になったからといって、必ず繰り返すわけではありません。ただし、乳腺炎を起こしやすい要因(授乳間隔、含ませ方、乳頭の傷など)がそのままであれば再発の可能性はあります。次のお子さんの授乳が始まる前に、前回の経過を助産師や母乳外来に伝えておくと、早い段階で手を打ちやすくなります。
しこりが残っていますが大丈夫でしょうか
炎症のあとにしこりが残ることはあります。多くは時間とともに小さくなりますが、1か月以上小さくならない、だんだん大きくなるという場合は再度の確認をおすすめします。乳腺炎の陰に別の病変が隠れていないかを確かめる意味があります。詳しくは乳腺炎と乳がんの見分けのページをご覧ください。
まとめ
- 乳腺膿瘍は、乳腺内に膿がたまった状態。抗菌薬だけでは治まらない
- ぶよぶよした部分、治療しても下がらない熱がサイン
- 処置は穿刺吸引か切開排膿。いずれも局所麻酔で行う
- 膿を出したあとは楽になることが多く、待つほど処置は大きくなる
- 多くの場合、授乳は続けられる。希望は最初に伝える
- 受診先は乳腺外科
参照ソース(一次情報)
- 公益社団法人 日本乳癌学会「患者さんのための乳癌診療ガイドライン」|乳腺疾患に関する学会の一般向け解説
- 国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん」|乳房の検査・診療の公的解説
- 厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」|授乳期の支援の基本方針
- 公益社団法人 日本助産師会|助産師による母乳ケアの一般向け情報